カメラ、隣、妄想

 カメラ片手に街に出る。こういうことは妄想力がものを言うんだと自分に言い聞かせながら、なんてことない風景を撮る。


 レンズを通せば、日常と変わらない景色だって物語を匂わせるようになる。たとえば赤いポストのまとう哀愁。蒼穹を分かつ電線は空中回廊。


 シャッターをきるたびに、四角な世界が生まれおちる。本物の現実とは少しずれた情景。そこには二度と戻らない瞬間が凍りついている。


 ファインダーを覗き込む私に、隣から声がかかる。何を撮っているのって。写真の国に引きずりこまれて、知っているはずの名前が出てこない。


「さぁ。なんだと思う?」


 ピントを合わせるはその人の瞳。ぱしゃりと音をたてて、またひとつ新たな世界が生まれる。

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