勤労、夫婦、約束の場所

 約束の場所、なんて大げさなものではないけれど、大学時代の友達で集まったときにはいつも来る場所がある。海に面した公園の、広場みたいな大きい日時計の上。十一月も下旬の海辺は冷たい風が吹いている。


 当時は六人のグループだったのだが、卒業してから全員が集まれたためしはない。今日だって四人だけだ。みんな働きはじめて、なかなか予定が合わなくなってしまった。


梨華りかは勤労感謝の日ですら勤労してるわけね、客商売は大変だ。たまには会いたいものだけどね」

「まあそういう人のおかげで休日に集まってもお茶ができるわけだもんね」

春美はるみは海外赴任だっけ? 英語だめだったのにねぇ。大丈夫かな」

「あの二人がいないと賑やかさが足りない気がする」

「二人の会話はほぼ夫婦漫才めおとまんざいだしね。賑やかっていうかうるさいっていうか」

「本当に仲よかったよね。部活も一緒だったし」


 私たちは誰からともなく海を見やって、ため息をつく。できることなら、誰かの不在に慣れないうちにまた全員で会いたいな、と思う。

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