色、着物、パラダイス

 おばあちゃんのお葬式のとき、まだ死ってものがよくわかってなかったんだ。色のとぼしい空間が恐くて、お母さんにずっとしがみついてた。黒に、白に、少しのグレー。特に真っ黒な着物の女の人たちが異様にみえた。

「おばあちゃんはどこ?」

 って聞いたら、困った顔をされた。そりゃそうだけど。

「お話してくれるって、約束したのに。パラダイスのお話の続きがまだなの」

 お母さんは私をなでて、優しい声音で言った。

「おばあちゃんはパラダイスに行ったのよ」

「じゃあ戻ってきてお話してくれる?」

「いいえ。いつかあなたもパラダイスに行くまで、会えないの」

「じゃあ、わたしも行く」

「今はだめよ。神さまが決めたときまでこの世界にいなくちゃ、パラダイスには行けないの」

 私は首をかしげた。やっぱりよくわからなかった。おばあちゃんのお話の続きを勝手に考えるようになったのは、それから二年くらい後。おばあちゃんの死をようやく理解できた頃だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る