初恋、灯台、雨
雨がさらさら降っていた。わたしは細かな雨粒をかぶりながら海に視線をやる。かたわらの青年は困ったように傘をさしている。わたしはなるべく美しく見えるように、くっと口角を上げて青年を振り向いた。
「初恋、だったんですよ」
泣けないかわりに、わたしの頬を雨がつたう。潮の香りがした。
「もう帰ってきませんね。会えませんね」
わたしの呟きは海におちていく。青年に傷をつけながら。ただ生き残ってしまっただけのこの青年を苦しめる言葉を吐くのは、大人気ないやつあたりにすぎない。ああ、きっとばちがあたる。神様が次に奪うものはなんだろう。
灯台が沖に向かって光の線をひく。かたわらの青年はなにも言わない。彼の罪とわたしの罪のあいだで揺れているみたいに。
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