第2話:神
「君が好き」と言われた。私は、残念、私は君が好みではない。そう思ったが、言わなかった。これは優しさだろうか。いや、違うな。自衛だ。自分を守るために気配りをするのだ。だから私は「今付き合ってる人がいるの」と嘘をついた。「だから君とは付き合えない」こっちは本当だ。君とは付き合えない。理由は誤魔化すけど、その結論はサイコロをどのように振っても1〜6の目しか出ないのと同じぐらい確かな事だった。しかし、君はしつこかった。恋人と別れれば良いと君は言った。私が頷かないとわかると、浮気で良いと君は言った。嗚呼、なんで頭の悪い君だろう。私に恋人がいるという設定も、私が今君と話してあげているのも、ひとえに私の自衛であって、真実でも温情でもないと言うのに。君はなぜ間に受けてしまう。
「じゃあ、私は君を殺す」
君はそういった。ここまで愛された事はなかった。しかし、その思いがたとえ月まで届き、マントルを貫いたとしても、それでも君は私の好みではない。良い加減気づきたまえ。しかし、君は気づかない。金づちを取り出した。何をするつもりだ。私の脳みそはトマトケチャップ(果肉入り)に変えられてしまうのか。しかしそれもなすべき流れなのだろうか。神が作ったレールなのだろうか。
「なぜ君は私を求める」
そんな事言っても仕方がないとは思っていた。私は君がどんな理由で私を求めていたとしても、私は君を求めない。私が求めるのは、君じゃない。なんて無駄な質問だろう。私は神のレールに乗る事を拒むのか。なんと不敬な。なんと怠惰な。しかし、それも良いのかもしれない。私は一分一秒でも長く生きなきゃいけないのかもしれない。あるいはそれが神のレールなのかもしれない。嗚呼、その御心を私に感じさせてください。
「そう言えば君は誰だ」
そうだ、お前は誰なんだ。これだけ求めてくるけれど、私はお前の事を知らない。どのような理由でどのような理屈でどのような意味でどのような意義で、私を求めるのか。それを聞かなきゃならない。我が神の抱擁を受け入れるのはそれからで良いだろう。私は自分の魅力を何も知らない。得られないならば壊してしまおう、そう思って貰えるだけの魅力が私にあるのならば、最後に聞いておきたい。
「私は君の敬虔の心を一身に受けた。しかし残念だよ」
君が持ち出したのは、トンカチではなくて十字架だったと気付いたのは、天の神が行方知らずだと天使に聞かされた時だ。嗚呼、私はなんて愚鈍なのだろうか。
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