甘い舌

かつ、と甘い舌を食む。

ちりちりと沈み込む歯に合わせるように、彼は緩く震えた。


「いはいんへすけど」


どうでも良さげに唸るのを無視して更に沈めてみれば、彼は諦めたように嘆息して私の頭をゆるゆると撫でた。


彼は私を甘やかしすぎている。


それに付け込む、私も私。


じわりと薄桃色の液体が顎を伝って滴り落ちる。口内に僅かに残るそれを嚥下して、その味気無さに溜め息を吐きながらゆっくりと離れた。


溜め息吐きたいのは彼の方だろう、と分かっていても、自然と出てしまうのは仕方ない。酸素が、足りないのだ。


「甘いのは舌だけか」


「君がそう思うならそうなのだろうねぇ」


からり、笑う彼に吐き気がする。


腐りかけた果実に似た甘い香りのする舌から零れ出る、致死量には少し届かない毒にまみれた言葉たちに殺される私のそう遠くない筈の未来を、見つめていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る