意味なく、
もくもくと作業をしていた彼がふと手を止めて、私の方を見た。
「どうした?」
柔らかい低音が耳を擽ったのと同時に、一瞬ぐにゃりと視界が歪んで手の甲に水滴がぼたり、と落ちた。
それはもう驚くほど熱いものが、ぼったぼたと。自分でもちょっと笑っちゃうくらいに。
「べ、つに、なにもな、いよ」
「そんな訳あるか」
そんなに見事に泣いといて、そりゃねーだろ。
ごつごつとした手が伸びてきて、私の頬をするり、と撫ぜる。
止めて下さいよ。涙止まんなくなるから。自分でも訳わかんないけど。
「何だよ、淋しかったんならそう言えって。構うから」
「誰も、んなこと言って、ないから!」
バカかこいつはすぐ調子乗るんだから!
もっと文句を言ってやろうと息を吸い込んで、そのまま飲み込んだ。
狡い。本当にこいつ狡い。
唇に触れた指先が熱すぎて、息が吐き出せない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます