意味なく、

もくもくと作業をしていた彼がふと手を止めて、私の方を見た。


「どうした?」


柔らかい低音が耳を擽ったのと同時に、一瞬ぐにゃりと視界が歪んで手の甲に水滴がぼたり、と落ちた。

それはもう驚くほど熱いものが、ぼったぼたと。自分でもちょっと笑っちゃうくらいに。


「べ、つに、なにもな、いよ」


「そんな訳あるか」


そんなに見事に泣いといて、そりゃねーだろ。

ごつごつとした手が伸びてきて、私の頬をするり、と撫ぜる。


止めて下さいよ。涙止まんなくなるから。自分でも訳わかんないけど。


「何だよ、淋しかったんならそう言えって。構うから」


「誰も、んなこと言って、ないから!」


バカかこいつはすぐ調子乗るんだから!

もっと文句を言ってやろうと息を吸い込んで、そのまま飲み込んだ。


狡い。本当にこいつ狡い。

唇に触れた指先が熱すぎて、息が吐き出せない。

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