血の赤

ガリガリと一生懸命レポートを書いていたかと思ったら、急に手を止めてペンケースをごそごそやり出した。

果たしてこいつは一体何をやっているのだろう? さっさとレポートを終わらせないと、泣きを見るのは君なんだよ? これ以上は手伝いようがないからね?

  

いつも突拍子もないことをする奴の行動を予測するのもバカらしくて、ひとまず静かに見守ることにした。

  

「こないださぁ、」

  

目当ての万年筆を見つけたらしい。

その透明な軸には、濃い色のインクがなみなみと入っているようだ。たぷ、と揺れたコンバータが赤く染まる。

  

「いいインクを見つけたんだよねー」

  

危機感ゼロのその声音に、何故こちらがドキドキしなければならないんだろうね。

私の気持ちはお構い無しに、しゃりしゃりとペン先がノートの上を滑っていく。

  

「血の赤色」

  

しゅ、とペンが止まり、書き終わりにぼたりとインクが一滴垂れた。

  

「何で私の名前?」

  

「ダイイングメッセージ、みたいなー」

  

「犯人に仕立てるの止めてくんない」

  

「何で犯人って決め付けるのさ」

  

万年筆のキャップを締めると、彼はこちらに顔を向ける。

  

「死に際に愛する者の名前を書いちゃったのかもしれないじゃないか」

  

「……バカじゃないの」

  

恥ずかしい奴め。やっぱりこいつの行動は読めないし読むだけ無駄だ。

悔しいことに耳が熱い。

  

 

「何はともあれさっさとレポートやりなよ!」

  

「……はーい」

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