終わらない話
「君なんか嫌いだ」
そう喚き散らせば、彼はゆるりと口角をあげた。
「嫌いと言い切れるほど、僕を知っているというのか」
責め立てるような口調のくせにやけに楽しそうにクスクスと笑うから、どうにも居心地が悪くなってきて僕は思わず言い淀む。
「……知って、るさ」
「嘘だね」
間髪いれずに断罪された。
恐ろしくなって、僕は静かに息を飲む。
「君は知らない。知る訳がない。目を閉じて世界に背を向けて、そんなので一体何が解ると言うのさ。君がどれほど臆病なのか、僕はきちんと知ってるよ?」
何も言うことが出来ずに、馬鹿みたいにその瞳を見詰める。
緩く弧を描いた瞳の奥ではしんしんとした暗い深淵が此方を飲み込もうと冷たく揺らいでいた。
「君なんか、嫌いだ」
振り切るようにもう一度告げる。幾分弱々しくはなってしまったけれど。
振り下ろした拳で、彼の顔面は醜く歪んでひび割れて、少し溜飲が下がる。筈なのに。
「嫌いと言い切れるほど、僕を知っていると言うのか?」
幾人もの僕が僕を見詰める。嘲笑するように責め立てるように憐れむように。
「……嫌いだ」
静かに染み込ませるように呟いた音が、僕の冷たい指先を少し震わせた。
* * *
嫌いな自分を嫌いな自分を嫌いな、
(緩やかにゲシュタルト崩壊。)
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