真夏の夜の夢、 ?
冷えた室内でとろとろと微睡んでいると、唐突に右足首が熱を持つ。
気怠さをどうにか押しのけて視線をそちらにやると、黒いふわふわとした尻尾が、私の右足首に巻き付いていた。
「どーしたのー……」
睡眠と覚醒の合間で漂う、特有の浮遊感の中で絞り出した声は、いつも以上にとろんと蕩けていて思わず苦笑してしまう。なんて情けないのだ、私。
私に声をかけられたことに気付いたのか、ふわふわの尻尾がぴん! と立ち上がる。
「主、主!」
ぴんっ、と尻尾が立ち上がったのも束の間、またすぐに私の足首にくるりと巻き付いた。くすぐったくて、くふっと変な笑いが漏れてしまう。
「俺はね、主に拾われて、本当に良かったと思っているよ。最初は失敗したなぁって思ったんだけどね、本当にね、貴女は放っておけない人だね、罪だね」
からかうように、ひたひたと尻尾が当たる。
「ほおっておけないって、なんだ。猫のくせにうえから目線だなぁ」
「だって上だもの」
みゃー、と嘘くさく鳴いてみせると、真っ黒な猫は私の頬をべろんと舐めた。
「主、俺は貴女の命が尽きるまで、貴女の傍で全ての災厄から守り抜いてみせるよ」
間近にある金色の瞳がきらきらと光る。
視界の端で揺らめく尻尾は、二本に分かれていて、あぁなるほど、こいつは猫又だったのだな、とすとんと理解した。
理解した?
「え?」
勢いよく起き上がると、私の腹の上でだらりとしていた黒猫が、抗議の鳴き声を上げながらベッドへと沈んでいく。
「あ、ごめん」
みゃう! と一声鳴くと、私の右足首を尻尾ではたりとはたいてくる。当然、その尻尾は一本だ。
「……え?」
私にしては珍しく、色も匂いも感触もある夢だったな。
溜め息を吐きつつ我が愛しの黒猫に手を伸ばすと、彼は愉快そうに、煌めく金の眼を細めた。
* * *
クーラーで冷やされながら視る世界の狭間。
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