欲しかったものの話

優しすぎる幼馴染の背中を追う、それももう、終わりだ。


「……『お兄ちゃん』」

「何だよ急に、懐かしい呼び方して」

「べっつに、何となく」


するり、と視線を逃がすと、ひっそりとした笑い声が耳を擽る。


「ねぇねぇ、昔みたいにさ、いっぱい褒めてよ」

「ほんとに急だなぁ……」


苦笑いしながらも、それでも彼はその大きな手のひらを私に伸ばしてくれる。

私はそれを、静かに目を閉じて待っている。


「お前は、頑張り屋さんだな」


柔らかく髪を梳く手付きに、口許が緩むのを止められない。

猫みたいにゴロゴロ喉を鳴らして、貴方が好きだっていっぱい伝えて、そうして必死に引き留めて。

私を無条件で肯定してくれる、貴方が欲しいの。

私の醜い心を見透かしながら、それでも何も言わない彼は、優しくて酷い。

だけど終わりだ、今日で、全部。


「俺はお前を、いつだって応援してるよ」


離れる手のひらを名残惜しみつつ、私は彼に笑顔を向ける。

精一杯の感謝と、ほんの少しの恨みを込めて。


「結婚、おめでとう」


手のひらの熱と笑顔で、多分明日も生きていける。



* * *

自己肯定出来ないなら、貴方を求めるしかないのに、

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