なまえのないものたちの、なんでもないみじかいはなし。
行木しずく
可哀想な彼
「死にたい、死にたい、なんて厭世家気取って物憂げに煙を吐き出したりしてるけど、どう足掻いたって俺なんかは死ねないのさ、その勇気もない、それだけの切っ掛けもない。情けないくらいに只管に、いつか訪れるであろう『何か』を、待って待って待ち続けて何度目の聖誕祭だろうか。絶望の淵に沈むくらいな気分なのに、俺を殺すにはまだ足りない」
息を継ぐように、煙を喫んで、吐く。
気怠げなのにやけに優美なその仕草を、私は何も言わずにただ見詰める。
「さて、」
ちり、と微かな音を立てて、灰が落ちる。思わずそちらに視線をやった私を引き戻すかのように、彼は酷く不似合いな暗い声で、私に呼びかける。
「君は、俺が待ち望んだ『何か』だろうか?」
希望に満ち満ちた瞳で、彼は私に呼びかける。
私は静かに首を振る。
そんなはずはない。彼の希望になぞ、なれる者はいないだろう。そんな気持ちを込めて、少しでも彼が哀し過ぎる『希望』を忘れられるように祈りを込めて、静かに首を振る。
「……そうか」
いっそ晴れやかなほど柔らかい微笑みを湛えて、彼は握っていた鎌を振り上げる。
その優美な姿を目に焼き付けて、私も緩やかに微笑む。
「では、さよならだ」
もしも、次を望めると言うのなら、彼を連れて行ってあげられる『何か』になりたいと、
分不相応に、
思っ て
私は、
* * *
死なない死神を誰か連れて行ってあげられるなら、
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