ネオナチ決戦編

第44話「ネオナチス、再度の演説」

 ゴールデンウイークが終わると、いよいよ持ってネオナチスが演説を始めていた。

「どうやら、今までは準備をしていたといわんばかりだね」

 教室に居た忍もその演説を見て率直な感想を述べる。

「あの宣戦布告から二週間は確かに本気だったけど」

 そんなかんなに突っ込んだのは、美夢だった。

「まあ、それだけ用意周到だともいえるね」

「あれ、あなたは?」

「申し遅れたよ。ボクは芹田美夢、よろしくね」

「芹田って、もしかして!」

 その名前に驚く理香子。

「そう、マジカルロッドを作った代表者。その一人娘だね」

「でも、なんで今更?」

 それは忍も分からなかった。男として活動していた結果は彼すら知らなかったからだ。

 かく乱の目的があったはずにも関わらずあっさりと男装を解いており、

忍でさえそれについて首をかしげてしまった。

「ボクは今までネオナチスの情報を裏で集めていたけど、彼らは時間を稼いでいた」

「彼らは最強のマジカルガイストを製作した。総帥用として相応しい物を」

「だから動いたっていうの!?」

 忍は思わず叫んだ。聞かされてなかったのだから当然だ。

「だけどここだけの話、実のところマジカルガイストは未完成なんだ」

「じゃあ、今からの演説はいってしまえば武力で怯ませるのが目的ってわけ?」

「無論、政府に未完成であることは教えている。けど、世間に漏れたら彼らを炙りだせない」

 すると頌子は美夢にこう指摘する。

「でも、それは世間の動揺を誘うわ。下手すれば厭戦気分すら齎してしまう」

「だからといってマジカルガイストを完成させるわけにはいかない。これは賭けなんだよ」

 それは分かったけど、と理香子は問いかける。

「そもそもそのマジカルガイストはどこが未完成なの?」

「そのマジカルガイストには総統の、つまりヒトラーの脳を乗せる予定だという」

 そうなると、と理香子はいう。

「技術的にできなかったの?」

「いえ、技術的には可能であると察知した。けど、時間が足りてなかった」

 その返答を聞いて、分かったように理香子は続ける。

「つまりあの時からずっと作っていても時間が足りなかったわけ?」

「彼らはクローン大戦で世界が崩壊してから、まずは人員を集めていた」

 無論、と美夢は続ける。

「そのころは技術があっても、それについていける技術者が居なかった」

「だからそのマジカルガイストを作りだしたのは今年に入ってからね」

 そんな美夢に、忍は率直な意見を述べる。

「テロリストに年度っていう概念はないってことだね」

「まあ、忍のいう通りだよ」

 すると、忍達のクラスの担任であるかすみが忍達に声をかける。

「みんな、いよいよネオナチスの演説が始まるわよ」

「美夢のいうように、まだ彼らのマジカルガイストは未完成」

 だけど、とかすみは続ける。

「ヒトラーの脳を乗せずそのまま送り込んでくる可能性も捨てがたいから、決して呑気に考えないで」

 すると、かんなが手を挙げた。

「かんなさん、どうしましたか?」

「ヒトラーの脳ってさっきからいってるけど、そもそも彼は第二次大戦末期に自殺したはず」

「ああ。それについて、説明を先にした方が良かったかしら」

 さすがに先生の言葉に生徒は『そうだったっけ』という顔をしていた。

「そもそもかんなさんの指摘通り、アドルフ・ヒトラーは第二次大戦末期に自殺したとされている」

「しかし、ソ連が回収した彼の頭蓋骨は別人のものだった」

 そして、とかすみは続けた。

「本物の彼は心臓を打ち抜くとすかさず頭だけ取りださせ、冷凍した」

「心臓が止まっても、脳は何秒か生きられる。その性質を彼は知っていた」

「何しろ彼は煙草を禁止したほどの健康マニアでもあったからね」

 おそらく、とかすみはなおも続ける。

「だからこそ心臓が止まってから脳が生きられる時間も、知っていたとして不思議ではないのよ」

 心肺停止から三分、それまでが後遺症抜きで蘇生可能な時間である。

 心臓打ち抜いた時点でショック死するんじゃないのか、

という指摘もあるかと思うが麻酔してればその点は容易にクリアできる。

 だがどうしてもヒトラーが自殺してから三分で冷凍処理を行わなければ、

彼が脳を凍結して時を待つということはほとんど不可能となる。

 しかし理論上可能である以上、彼の脳が無事でないという証拠もない。

 そしてネオナチスがヒトラーを擁するとはったりでなく、

本気で宣言している以上彼の脳が実際に存在する可能性は極めて高い。

 これについては美夢の調査でも覆すような情報が出なかったので、まず間違いない。

 少なくとも忍はそう確信していた。

 それに理香子達のように実際戦ったメンバーや、

クラス最強といわれていたちひろもそう思っていた。

 ちなみに他のクラスメイトは『まあナチスだしそのくらいできるだろ』

という程度にしか考えてなかった。

 ナチスの技術力が高いというイメージは日本において特段高いようだ。

 きっとどこぞの漫画にナチスの科学力を称える軍人が居たからだろう。

 彼はナチスの軍人であったものの、人体改造を施されておりセリフに妙な説得力があったのだ。

 なにはともあれ、誰一人としてヒトラーの生存(といっても脳だけだが)を疑っていなかったわけだ。

 そしていよいよ放送が始まるということで、かすみがテレビを付ける。

「我々は、ついに総統のためのマジカルガイストを建造させた!」

「後は総統閣下をお乗せするだけだが、まだそれは成功していない」

 演説の中であえて未完成であることを明かすネオナチス。

 日本政府が情報を隠しているのを逆手に取った形だ。

「だがこのマジカルガイストハーケンクロイツ」

「これは『放課後のメイザード』であろうとも打ち倒すことはできない」

「それほどの技術を投下したこれに、総統閣下がお乗りになればより完璧になるであろう!」

 生徒達は動揺していた。相手に、完全なまでにペースを取られていたからだ。

「まずいね、動揺している……」

 すると、かすみが意外なことを口走る。

「案ずるな。こちらにも最終兵器はある」

「そんなものがどこにあるっていうの!?」

 それもそうだ。忍はそんな話聞いてないからだ。

「清宮忍、この少女……いや少年こそあの『放課後のメイザード』たる清宮神奈の双子の弟!」

 生徒は驚愕する。

 どちらかというと女子校のはずの学園に男性がいたことよりも、

あの『放課後のメイザード』の双子の弟がここに居るということに驚いたようだ。

「えっ、これってまさかのぶち壊し?」

 事情を知っている面々は張本人である忍の言葉と同じ意味、

かつ事情を知らない生徒とは別の意味で驚愕していた。

「あなたが一卵性双生児の男女である以上、あなたの正体は明かした方がよりいいからね」

 かすみはさくっと忍に返す。

「だからってバラすなんて、今まで性別隠していたのは何だったの?」

 子供っぽい口調のまま抗議する忍。

 クラスメイトは『律儀なんだな』としか思わなかったらしく、

元々こういう口調だったという意見はなかった。

「ネオナチスが自分から『ハーケンクロイツ』は未完成だとぶっちゃけた」

 となると、とかすみは続ける。

「それによる動揺を打破するには、あなたという存在が必要だったのよ」

「ところで、ボクは男なのに女子校通っていたんだけど大丈夫かな?」

 忍の問いにかすみは突っ込む。

「動揺して、あなたに超法規的措置が取られているってことを失念してるの?」

「それはそうだけど、実際問題世間にはどう説明するつもりなのかな」

「こうなれば、『ネオナチスが余りにもヤバいから忍入学させるために手を回しました』で済むわ」

 それと、とかすみは続ける。

「このことは全校生徒にも明かすから、もうその口調は止めていいのよ」

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