第42話「ボクらが過ごす『日常』」

 アマーリアは警察に引き渡され、それから一日が経った。

 忍は……普通の女子校生活を送っていた。

 当該人物が男性な時点で普通じゃない、というのはこの際置いておくことにする。

「日常、か……」

 昼休み忍は理香子と頌子、

そしてかんな以外の誰にも会話が聞かれないよう食堂の端っこでひっそりと昼食を取っていた。

「正直、ちょっと迷っているのかしら?」

 そう問いただしたのはかんなだった。

「ボクの過ごす日常が上っ面で笑える物だから、本当にボクは日常を守っているんだろうかと思って」

 忍の答えに、かんなは返した。

「確かに、あなたはネオナチスの人たちのように戦うための教育ばかり受けてきたといえるかしら」

「内容はあなた達とは変わらないよ。まあかんなは知らないだろうけど、ボクは普通に生活していた」

「この生徒と変わらない生活をしていたなら、なんであなたは日常を守ってないと思うの?」

「ボクが今やっていることを忘れているわけじゃないよね?」

「私にとってそれは自然なことだから。私は、他の二人と違ってその姿しか見てはいないから」

「性格は分かっている、ということだね」

 そんな忍にかんなは返す。

「あなたが好きでそうしているわけじゃないことも、私には分かっている」

「まあ、やる以上は幾らか楽しんだ方がいいかなとも思っているけどね」

「そう思えないなら、使命だけでこんなことするなんてきつ過ぎる」

「もしそんな人間が居たとしたら、きっと最後までここに居ることはできないだろうね」

 そんな忍に頌子は問いただす。

「まるでそういう人を知っているみたいな口ぶりね」

「アンソロジー本かなんかで見た気がするんだよね、そういうキャラを」

「ふうん。まあいいけど、ここには私も居るんだから道を踏み外さないようにね」

 理香子の言葉に、忍は当然だとばかりいい切る。

「まあ、こんなことで女装に目覚めたりしたら笑えないしね」

「何というか思っていた以上には保守的な人ね」

「かんなもリベラルっていうわけでもないだろう?」

「まあ私はリベラリストじゃないわ。そもそもこの年齢でそこまで考えれはしない」

「ならボクも大して保守じゃないと思う。多分、倫理観が強いだけだと思う」

 だからこそ、と忍は続ける。

「性別を隠してここに通っていることは断罪されても仕方ないことだと思う」

「この国が今世界の中心であるからといって、守ることで相殺されるなんて考えてもいない」

「その強すぎる倫理観は時に折り合いを欠けることになるわ。気を付けて」

「そこは結構いわれるけど、それはゆっくり直すしかないんだろうね」

「まあ無理に直そうと思って直せる物じゃないからね」

 かんなもそこは納得したようだ。

「ともかくボクがやっていることで歪でもこの

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