第40話「ボク達は『女の子』」

 どうにか門限までに戻って来た忍達。

 寮の横には『中保台学園学生寮』と彫られており、

換気口の手前には太陽光発電システムが設置されている。

 こんな厳重な寮に住んでて生徒達が魔法少女を養成するための学園に通っている自覚が無かったのか、

と思う人も居るかもしれない。

 しかし中学生である以上こういう厳重な仕組みについては、

『正直良く分からない』と思うだろうし無理はないと思う。

 というか、正直いってやりすぎなレベルである。

 どうでもいいかもしれないが広島は殆どが埋め立て地だ。

 しかし彼らの寮は元々陸地だった部分にあるため、

避難シェルターも兼ねることが可能である。

 津波にもシャッターで防御しえるし、換気口に水が入ってもむしろ備蓄してしまえる。

 何せ地下に作られているのでスペースはあまり考えなくてもいい。

 強いて考えるとすれば他の家の基盤に当たらないことであったが、

その辺はしっかりと解決していた。

 ちなみに入口はスロープになっており、車椅子でも容易に出入りは可能だ。

 中保台学園は途中で骨折してリタイアしたからといって、転校処分になるようなことはない。

 あくまで表向きは普通の学校だし、骨折した生徒も経験則から教える立場になれるからだ。

「ただいま戻りました」

 そんな忍達に受付の人はいう。

「門限までに入口は通ったみたいだね」

「もう8時ですからね。一応、診断書を持ってきました。理香子が付き添ってたという証拠もあります」

「律儀というかなんというかだね。で、ふむふむ……」

 受付の人はまじまじと書類を見る。

「なるほど、忍と神奈は一卵性双生児の男女だったのか」

 忍は女装姿だったが受付の人は真相を知ってるし、

理香子が忍の事情を知っていることも知っていた。

「蓋を開けてみればそれだけだった、といいたげですね」

「それだけ、というほどでもないけどね」

「稀な例だといいたいんでしょう?」

 忍は受付の人を皮肉るように見やった。

「コロンブスの卵という言葉は知っているかい?」

「やってみれば簡単なことでも試すまでは難しく思える、ということですね」

 だけど、と忍は付け加える。

「そのせいでアメリカインディアンの悲劇は起きたともいえますからね」

「それは昔の人類が今より愚かだったからだ。今の人類が聡明とはいえないけど、当時はもっと愚かだ」

「まあインディアンの人々がヨーロッパの人々と摩擦を起こしたというのもありますからね」

「野蛮な原住民だと思ったのは事実だろうね。仕組みが違えば争い合う」

「それはクローン大戦まで変わらなかった。今でも『変わった』とはいえないですしね」

 あくまでも、と受付の人は返す。

「クローン大戦で痛手を受けすぎて、ネオナチスのようなテロリストでもない限り元気がないだけだ」

「だが人は変われます。歩みは遅いかもしれないけど、人は変わることができます」

「そうよ。変わる機会を失わせないためにも、ネオナチスは私が倒す!」

 そんな理香子に、忍が突っ込む。

「ボクたちが、だよね?」

「息が合うんだな」

 今度は受付が忍を皮肉ったが、忍は普通に返した。

「幼馴染だからね。息が合うのは不思議でもないよ」

 そんな忍を見て『そういうのは分かる癖に、恋心には鈍感なんだから』と思う理香子。

 しかし彼女は本心を隠しつつ、こういう。

「ともかく、鍵をもらえませんか?」

「分かってるって」

 そういって彼らは鍵を受け取る。忍と理香子は同室ではないのでそれぞれ鍵を渡された。

「さて、地下四階だしエレベーターを使うか」

 そして忍達はエレベーターで降りていく。

「で、今日の買い物はどうだった?」

 『女の子』として買い物した荷物は、今は忍の手にかかっていた。

「まあ、気分転換にはなったかな。知りたいことも分かったし」

 翌日、忍は学校へと歩みを進める。

 頌子と共にたわいのない話をして、教室に着いたらクラスメイトと駄弁る。

 何一つ普通の女の子とは変わらない。

 変わっている点があるとしたら忍が本当は男であるくらいか。

 昼休みになり、屋上で理香子やかんなと共に弁当を食べる。

 女子制服に身を包んだ男子という字面だけ見るとシュールな忍だが、

その容姿は他の女子と比べてそん色ない。

 男なので当然胸のサイズは貧乳どころの騒ぎではないのだが、

ぺたんこ好きな人も居るので魅力がないわけではない。

 理香子やかんなと比べるとやはりぺったんこさが際立ってしまっているように見えるが、

それはそれである。

「ところで神奈とかんなって似てるよね」

「偶然よ。かみなとかんなだから違うわ」

「まあ神奈は病院に居るし、何よりぺたんこだからね」

 姉だからかその辺の特徴を普通にいう忍に理香子は突っ込む。

「ぺたんこって、忍は意外とそんなことをいうのね」

「だってターナー症候群なんだから当然だよね?」

「まあ、間違ってはないけどさ」

 かんなはターナー症候群といわれても特に突っ込まなかったが、逆に忍が驚く。

「かんなはターナー症候群を知ってたの?」

「クラインフェルター症候群を調べていたら、それが出たから」

「調べた物はその周辺情報も調べるタイプなんだね」

 意外そうな忍に理香子は返す。

「最強といわれるだけあって、知識欲はあるのよね」

「確かに、凄い相手ではあったかな」

 模擬戦の時のことを思い出す忍。

 あの時は自分が勝ったが、中々の戦法だったと彼は感じていた。

「ともかく、急いで弁当を食べよう。次の授業が始まりそうだし」

 そして放課後。

「私はアマーリア・シュマッハー」

「一人だけってことは、偵察だね」

 そんな忍に頌子は突っ込む。

「そんなことをいっていたら道化だと思われるわよ」

「別にいいよ。どうせ捨て駒だろうし」

「捨て駒とは失敬だ。私は優秀な偵察隊。諜報部はお前の性別くらいしか調べられなかったからな」

「国家機密を調べられる時点で相当凄いと思うんだけど」

 忍の指摘にアマーリアは返す。

「お前の性別など神奈の病院から彼女の情報を見ればすぐに分かる」

 幸い、いつ知ったかはいわなかったので忍の性別隠蔽は一応役に立っている。

 敵を欺く、という点では全く意味を成していないのだが。

「確かに、家族構成を当たれば機密もくそもない。ただ、それでも生き馬の目を抜くことだったはず」

「ああ、実際それを持ち去ろうとしたらさすがに気づかれてね」

 どうやら、他の魔法少女の能力を知られないという意味では忍の性別隠蔽も役立ったらしい。

 過去形なのが少々切ないが。

「なら尚更数はかけられないよね、頌子」

「ええ、やってあげるわ」

 そんな頌子にアマーリアは余裕をこく。

「あなたは風使いと聞いた。風は私の得意分野。旧世代の風使いなどに私は倒せん」

 頌子は忍にいう。

「あなたなんて私一人でも充分よ、『風使い』さん」

「私はアマーリアだ!そう呼ばないというのも含めて、後悔させてやろう!」

 杖を構えたのはほぼ同時だった。

「マジカルロッド、コネクション!」

 二人がそういうと、正面に構えた杖から桃色の魔法陣が展開される。

「マジカルロッド、ゲートイン!」

「ネオナチス重鎮の力、侮るなよ!」

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