忍の真実編

第39話「宝くじより低い確率」

そして現代に戻り、忍と理香子は五丁堀のバンキに居た。

「ここが広島のバンキホーテなのか……」

「ゴールデンウイークに見なかったかしら」

「外は見たが、中は見なかったからな」

「それもそうだったわね。でもここの地下がゲーセンなのは調べてるわよね?」

「まあな。軍これアーケードも2020年に入ったんだっけか」

 軍艦これくしょん、略称『軍これ』。

 第二次世界大戦における軍艦。特に日本のそれを擬人化した少女達が、

人類の敵である『深海軍艦』と戦うゲーム。

 元はDWWとカドヤマのコラボしたオンラインゲームだが、

2016年にアーケードゲームとなりたちまち大人気となったのだ。

 ちなみに同年発売されたコンシュマー版はクソゲーだったらしい。

「というわけでさっそくやってみるぜ」

 そういって忍は軍これの待ち椅子に座る。

 それを見つつ、そういえばと理香子が彼に呟いた。

「2017年にカクヨムで連載された作品に『放課後のメイザード』があったんだって」

「どうしたんだ理香子、それに何があったのか?」

「あの作品にはクローン大戦のことが予言されていた。けどネオナチの襲来までは見こせなかった」

「そりゃ人類に呆れたクローンの襲来なんてネタは使い古されてるしな」

 もし、と忍は続ける。

「ネオナチのネタを今更やるならもはやそれはネタ切れの域だろう」

「昔は話題にもならなかった作品だけどね。今では『予言書』としてもてはやされているの」

「もしも、だ。もしも僕達が小説の登場人物で、誰かが運命を操っているとしたら?」

「仮に私達が小説の登場人物だったとしても、私達の予想は作者を越えることすらある」

 例えば、と理香子は続ける。

「昔連載され、必殺技がブームになってた作品があるけど」

「それがどうかしたのか?」

「その作者は『主要人物が勝手に喋った』といったらしいわ」

「だから、仮に僕達が小説の登場人物だったとしても、悲観する必要はないと?」

「そうね。仮に作者が運命を操っているとしても、登場人物の意志がぶれすぎると物語は成立しない」

 故に、と理香子は続ける。

「作者の及ぼせる力は所詮『設定』の範囲内でしかないのよ」

「なるほどな。深いような深くないような」

「それにもしこんなことをグダグダいわせているならきっと他にネタがないのよ」

「そんなこといったら本末転倒だろ」

 そんなこんなで軍これをプレイしおわった後、忍は神奈と共にキャッチャーゲームを試す。

「人形を魔法で動かせないかしら」

「昔はともかく、今は対策されているんだが」

「冗談よ。私が小学生だった頃だってそんなことしなかったよね?」

「まあ、そうだな」

 重力操作があれば人形くらいは平気で動かせる。

 流石に、今ではガラスに対魔力加工を行っているといえ昔は何の対策もしてなかったのだ。

 しかも魔法で景品を取ったとしても証拠は防犯カメラくらいにしか映らない。

 いつの間にか景品が取られていたとしても、誰も気づかないのである。

 まあ魔法使いは総じて小中学生だったこともあり、

そんなことは起こらなかったとされている。

 実際起こっても証拠は残らないが、

不可解な景品獲得が起きたりしていないのでそれが証拠となっている。

 といってもそれは『犯罪が起きていない』というのを説明するための状況証拠に過ぎないが。

「まあ、こういうのはコツさえ掴めば」

 そういって理香子はキャッチャーゲームに100円玉を入れる。

 そしてキャッチャーを動かすと、それはぬいぐるみのタグを掴む。

 ツメが人形のタグを上手く掴んだらしく、ぬいぐるみは出口へと一気に誘導される。

 そしてそのままぬいぐるみは景品取り出し口へと落ちていった。

「やったあ!今日は忍も一緒だし、いい思い出になるわね」

「思い出、か。いずれにしろネオナチスも一筋縄ではいかない相手だ」

「だから確かめるつもりなの?あなたと神奈の関係を」

 理香子の問いに忍はこう答える。

「まあ今日は検査できそうにないし、明後日あたりにでもサンプルを取って貰おう」

「神奈のサンプルはあるの?」

「神奈は病院に居るからすぐ取れる。まあ検査の翌日、つまるところ明々後日には戻ってくるだろう」

「それは楽しみね。でももしあなたが一卵性双生児でないとしたら?」

「その場合はその場合だ」

 とかいっていると、神奈が何かを思い出すようにいった。

「そういえば土日でも遺伝子検査やっている病院があるって!」

「それは本当か、理香子?」

「まあ、質屋町の総合病院だけどね」

「総合病院なら確かにやってても可笑しくはないか」

 そういいつつ、忍達は徒歩で病院へ向かった。

 総合病院に着くと、忍は早速要件を聞かれる。

「何の御用ですか?」

「僕と清宮神奈の遺伝子比較をして欲しい。ひょっとしたら、一卵性双生児の男女かもしれないんだ」

「あの『放課後のメイザード』ですか。その子の名前です?」

「『放課後のメイザード』、やっぱり有名なんだな」

「しかし何故、あなたが弟だとしてこんな地方都市に居るんですか?」

「観光だ」

 忍は嘘を付いた。真相をいってしまえば、秘密が漏れてしまうからだ。

「まあいいでしょう。検査結果はホテルにでも送ればいいでしょうから」

 というわけで忍は唾液を採取される。

「医学の進歩って凄いな。今では唾液による遺伝子検査を病院でもできるんだから」

 そういいつつ、忍は周囲を理香子と周りながら検査を待つ。

 しかし夕方になったので、近くのファーストフード店で食事を取ることにした。

「どうなの、忍?」

「待ち遠しくもあり、怖くもあるな」

「あなたとお姉さんの関係が壊れるのが怖いの?」

「僕と姉さんが双子だってのは疑いようないの事実だ。だが今まで二卵性双生児だと思ってたからな」

「本当に一卵性双生児の男女だったなら、それで関係が変わってしまうんじゃないかと?」

「まあな。僕もそういうのは気になる」

「別にいいんじゃないの?店員さんもハンバーガー持ってきたし、食べましょう」

「そうだな。腹が減ってるとストレスも溜まって、神経が過敏な人は些細な言動でも切れてしまうから」

 そんな理香子に忍は返す。

「それで『当たった時、当たり所が悪かったら死んでたかも』と思うことがあったような口ぶりだな」

「そんなことはないけど?」

「まあいい。とりあえずハンバーガーを食べよう」

 そうしてハンバーガーを食べたら、忍は再び病院へと戻る。

「検査の結果は出ましたよ」

「あなたが仮性半陰陽の可能性も一応調べましたが、遺伝子は正常な44+XYでした」

「まあ、もし僕が仮性半陰陽ならもう生理が来てないと可笑しいしな」

「念のため、ですよ」

「そして神奈さんですが、あなたとは一卵性双生児でした」

「やっぱりというかなんというか……」

 そして、と医師は忍の言葉を遮る。

「神奈さんは44+XO。ターナー症候群でした」

「ターナー症候群?」

「性遺伝子は通常、XXかXYです。でも極まれにX一本になることがあります」

「それは知ってる。XXYがクラインフェルター症候群だっけな」

「ターナー症候群は聞いたことないんですか?」

「クラインフェルター症候群は女性にしか見えない男性、というネタで知ったからな」

「まあ、要するにターナー症候群というのは性遺伝子がXだけである場合起こる症状です」

「幸いというべきかは分かりませんが、神奈さんは生理不順のみを引き起こしてました」

「それって、『幸い』なのか?」

「心系の心奇形、馬蹄腎などの腎奇形をしばしば合併するらしいです。でも、不妊はありえますね」

「まあ、排卵があるなら体外受精とかもあるしな」

 姉が遺伝子異常だったというのにそこまで驚かない忍。

 だが、それもそのはずだ。

「しかし、まさか本当に一卵性双生児だったとは思わなかったな……」

「本当に稀なケースよ。宝くじの一等に当たるよりも確率は低い」

「世界で数例しか報告されていないから、20億分の1と見積もってもいいのか」

「当時は60億人人類が存在していたからね。しかも片方が性遺伝子欠落だし」

「人間が死ぬまでに心臓を20億回鳴らすとして、そのうちの一回を聞いた時発生することってわけね」

「そんなのは俗説だろう。無論、天寿を全うできる人間が少ないとかじゃなくてだ」

「誰も人間が生まれてから死ぬまでに心臓を鳴らす回数なんてカウントできないからね」

 俗説としてそういわれるのも無理はない、と理香子はいいたげだ。

「だいたい、それだと陸上選手の寿命は短くないと可笑しいと思うぞ」

「陸上選手は心臓が早く鳴るから?」

「そうなるな。だからもしその俗説が本当だとしたらその分寿命も縮むんじゃないかと思う」

「そういう曲があるんだけど、ばっさり切ったわね」

「それに今では延命理論も開発されていて、理論上は200歳まで生きられるらしい」

 使われていないが、と忍は言外にいった。

「脳移植とかもあるけど、それは別の体だしね」

「脳移植も理屈の話でしかないんだよな。ひょっとしたらどこかでやってるかも、くらいで」

「技術的には可能だしね」

「遺伝子レベルの性転換とかも、できないことはないからな」

 技術的には可能だが、臨床実験が上手くいってないのでまだ未完成である。

 性別を自由に操れるようなことは、多分2050年くらいにならないと無理だと思われる。

 つまり仮に性転換できたとしても一方通行なのだ。

 まあ性同一性障害の人は一方通行でも『性別適合』したいとおもうだろうが、

宗教とかそもそもそんな手術に耐えられるのかという問題点が存在する。

 なので魔法歴8年西暦にして2025年の医学では理論上可能でも、

現実的には不可能という状況である。

 ちなみに魔法なら遺伝子を変えずとも性器を組み換えることで性別変化も可能だが、

負担が大きいので外見をそれっぽくした方がいいことは記したと思う。

 ついでに性器の移植による性転換なら負担も少ないと思えるが、

それはそれで中途半端なのではという意見もある。

 また前述したように宗教学者が反対していたりしていて、

これもやはり実現には至っていない。

 人体をどこまでなら弄っていいのかはもはや宗教や道徳の領域になるため、

そこは致し方ない部分でもある。

「というわけで、現実は非常だがな」

「スマホを見せてどや顔されてもね……」

「別にいいだろ、こういうのは参考にすればいいんだし」

「まあ、口頭でいったら確かに長すぎるわね」

「と、もう七時になる。検査で遅れるとメールしたが、帰らないとな」

 寮の門限は八時だから、メールを送るしかなかったのだ。

 寮は広鉄の矢口駅から徒歩5分で有り、

いざという時シェルターになるよう地下に作られている。

 『実はスペース取れなかっただけじゃないか』という突っ込みは禁句である。

 入り口はシャッターが閉まるようになっており通気口は入り口上部につき、

万が一の核攻撃という時にも耐えれるよう清浄機能もある。

 地下一階は受け付け兼浄水タンクになっており、

エレベーターと階段の両方が存在している。

 地下二階は食堂兼食料プラント兼備蓄庫であり、長期間籠城することも可能である。

 そして地下三階からが居住スペースになっている。

 ともかくそんなわけで、門限に間に合わなければ本気で締め出される恐れもあったのである。

 シャッターは内側からなら簡単に開くが、外側からは合鍵が無いと開けられないからである。

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