第38話「新世界」

 文化祭が明け、修学旅行の迫る六月最後の週。

 だが修学旅行が近い上に、文化祭で元気づけられたにも関わらず生徒は元気がなかった。

 何故なら、とうとうアメリカ合衆国が陥落したからだ。

 前述したようにアメリカはニューワールドのリーダーである、

『レジストール』によりホワイトハウスを占拠されてしまった。

 大統領を人質に取られても応戦はしたアメリカだったが、

それでも日本でいえば天皇陛下がお捕まりになられてしまったくらい衝撃的な出来事なのだ。

 だからといって神奈達は誰一人として諦めてはいなかった。

 彼女達が諦めるということは、日本がニューワールドの手に落ちることと同意だからだ。

「私はアルファール」

「俺はデルタジア」

「そしてこのオメガリア」

「もはや我らは引けん。全力で相手をする」

 仰々しいアルファール達に、神奈はこう突っ込む。

「さすがはテロリストってことかしら。その仰々しさは目を見張る者ね」

「テロリスト、か。所詮お前たちも新世界には不要な存在!」

 するとアルファール自動車を元にマジカルガイストを形成していた。

 自動車は一度使った手だが、彼らはその自動車に乗り込んだ。

 すると自動車だったとは思えないほどロボット然とした姿へと変形した。

「引けないのは私達も同じよ。例えアメリカが落ちたとしても、諦めるわけにはいかない!」

 神奈がそういうと三人は右手を横に突き出し、一斉にこう叫んでいた。

「マジカルゲート、オープン!」

 すると小さいピンクの魔法陣が右手から現れ、そこから杖が取り出される。

 杖の先には魔法陣があった。

 周囲の花粉を材料として杖を形成していたのだった。

 そして彼女たちは杖を正面に構えるとこう叫んでいた。

「マジカルゲート、コネクション!」

 すると彼女たちが光に包まれ、衣服が魔法少女のそれへと変化する。

 制服を素材として衣装が形成されていくのだった。

「魔法少女メイザード☆かんな!」

「魔法少女ウインド☆しょうこ!」

「魔法少女アイアン☆ちひろ!」

「我ら、放課後魔法少女隊!」

 神奈達はいよいよアルファール達との最終決戦に挑もうとしていた。

「いくわよ!」

 神奈がいつものようにマジカルガイストへと突っ込むが、

難なくかわされてしまう。

「早い!元が自動車なのにこんな反応速度が出るなんて!」

 自動車やレーシングカーといったものは小回りが利かない。

 トラックやバスよりは当然ましだが、バイクよりも小回りは効きにくいのだ。

 だが神奈の攻撃をかわした時の小回りはまるでバイクのようだった。

 マジカルガイストは人型なので従来の自動車より小回りは効いていた。

 それでも神奈達は余裕で追いすがれるほどの小回りだったことを鑑みれば、

ロボットとなったマジカルガイストはかなりの小回りだったのだ。

「人型ロボットは実用性がないといわれた時代もあるけど、魔法ならまるで手足のように動かせる」

 頌子は冷静に分析した。

「なら私がやるしかないわね。アイアンランサー!」

 ちひろの持ったラジオから鉄が拡散し、やがてそれは大量の槍となる。

 大量の槍はそのままマジカルガイストに降り注ぐ。

「まさか、ロボットである以上それを防げないと思ったか?」

 ロボットの域まで到達したマジカルガイストは槍を捌いていく。

 しかしそれがちひろの狙いだった。

「ウインドカッター!」

 頌子が杖から放った風の刃が頭部へと迫っていく。

「なにっ!?」

 槍を捌くことに集中していたアルファール達はその風をかわせない。

「とでもいうと思ったか。座席は頭部だぞ?」

「次にあなた達は『それでは我々に届かない』という」

「それでは我々に届かない……ハッ!?」

「私達は人殺しをやりにきたわけじゃない。殺す以外に手段がないならべつだけどね」

 そういいつつ、神奈は杖を構える。

「メイザードサンダー!」

 神奈の雷がロボットの頭部を貫き、マジカルガイストはショートし地上に墜落。

 アルファールは魔力を使い果たし、マジカルガイストは元の機械に戻る。

 するとアルファール達はマジカルガイストから排除され、その場に倒れ込むのだった。

 そして同日、彼らは警察へと引き渡された。

 そして修学旅行の日。

 神奈達がアルファール達を撃退したことで、生徒達には活気が戻っていた。

 まあ沈んだ状況で修学旅行というのは精神衛生上かなり不味い状態だろう。

 例え世界がほとんどニューワールドに掌握されていようと。

 幸い食料は国連経由で何とか届いているし、彼女達は普通に過ごすことができていた。

「で、今日は東京に行くわけだけど。準備はできているかな?」

「ええ、問題ないわ。生理製品もばっちりだし」

「そういや神奈って生理不順だっけ?」

 破廉恥な会話だが、姉弟(きょうだい)なわけだし多少は仕方ないかもしれない。

「ええ、今度医者に診て貰おうと思っているの」

「大げさだな。子供だからかもしれないのに」

 だからといってデリカシーが無い気もするけど、

まあ家族だから多少はバイアスがかかるのかもしれない。

「まあ、ともかく準備はしないとね」

 そういうわけで神奈はテキパキと準備をする。

(二卵性双生児と生理の関係を調べた方がいいのかな?)

 変な意味でなく、純粋にそう思う辺りどう突っ込めばいいか分からない忍であった。

「僕も準備はできてるし、行こう」

「分かっているわ、忍」

 そして玄関を出ると、そこでは理香子が待っていた。

「理香子か。ひょっとして迎えに来たのか?」

「そういうのは察しがいいんだから」

「そういうのはってどういう意味だ」

「教えてあげないわよ」

 理香子は年相応といっても朴念仁な忍にすねたようであった。

 だがすねたといっても少しなので、彼女達は一緒に駅まで向かうこととした。

 そして近くの駅から名古屋駅へと向かうためにNRのホームで電車を待つ。

 電車が来るとそれに乗り込み、名古屋駅に着くと彼女達は待合所へと向かう。

「さて、今日は待ちに待った修学旅行」

「ニューワールドで世界はごたごたしているけど、負けないように頑張ろう!」

 そういう先生の音頭に『おー!』と元気のいい声で返す生徒達。

 無論その中には神奈達もいた。

 そして新幹線を待っていると、忍は理香子にいわれる。

「私って神奈に迷惑かけてないかな……?」

「君は僕を守りたくてそばに居るんだろう?ならそれはそれでいいんじゃないかな」

 恋心は分かっていない忍だったが、理香子が彼自身のことを守りたいというのは分かっていた。

「ありがとう、忍」

 忍が自分の恋心に気づいていないとはいえ自分のやり方を肯定されたことは、

理香子にとって幸運だったと断言できる。

 ともかくそうこうしている間に新幹線がやって来て、忍は神奈達と共に乗り込むのだった。

 現在の忍たちは、修学旅行を振り返ってこういう。

「あの時は楽しかったし、遊園地にも行けた」

「勿論遊園地で神奈は五体満足だった」

「けど、最終日奴らはやって来たんだ」

 最終決戦に赴くべく変身した彼女達の姿が、忍の脳裏で甦る。

 だが忍はその日のことではなく、まず修学旅行の時から話を始めようとした。

「まあ、それはさておき」

「置いておくのね。もう五丁堀のバンキに着くわよ」

「遊園地について話したかったんだがな」

「遊園地の話ならしなくても覚えているわよ」

 そして、修学旅行当日のことに話は移る。

「遊園地、楽しかったね」

「そうだね、神奈。ニューワールドも攻めてこなかったし……」

 彼女達はホテルで朝食を取り、荷物を纏めていた。

 修学旅行も終わり、いよいよ帰路に着こうとしていたのだ。

 しかし、ここにきて放送が入る。

「緊急避難警報。軍事部隊が日本に接近。繰り返す、軍事部隊が……」

 そのサイレンで、神奈達は確信する。

「とうとう来たのね。ニューワールドが」

「でも、中華民国はまだ制圧されてないはずよ」

 そういったちひろだったが、頌子がすかさず新聞を見つけた。

「いえ、これを見て」

 すると、ちひろが驚いたように声を出した。

「中国が占領された、だって!?」

「もう残されているのは日本だけらしいわね。後の国はもう既に、奴らの手に!」

 もはやこれは、女性である神奈が奴らと呼んでしまう程の状況であった。

 すると忍と理香子が走ってくる。

「日本が危機なのにもう黙ってはいられない。僕も戦う!」

「あなたが戦うとなれば恐らく理香子も戦おうとするはず」

 神奈は忍を諭しつつ、こう続ける。

「そうなってしまったら、日本が危機だからこそ理香子は確実に死ぬわ」

「僕に『僕は理香子を守れ』というのか?」

「そうよ。分かったわね、忍!」

 そういって神奈は仲間たちと共に駆けていった。

「私を守れ、か。神奈も粋なことをいうわね」

「確かに君は、大切な友人だからな」

 忍も理香子と共に避難を開始する。

 そして神奈達が、ホテルから出ると一斉にこういう。

「マジカルゲート、オープン!」

 すると小さいピンクの魔法陣が右手から現れ、そこから杖が取り出される。

 杖の先には魔法陣があった。

 周囲の花粉を材料として杖を形成していたのだった。

 そして彼女たちは杖を正面に構えるとこう叫んでいた。

「マジカルゲート、コネクション!」

 すると彼女たちが光に包まれ、衣服が魔法少女のそれへと変化する。

 制服を素材として衣装が形成されていくのだった。

「魔法少女メイザード☆かみな!」

「魔法少女ウインド☆しょうこ!」

「魔法少女アイアン☆ちひろ!」

「我ら、放課後魔法少女隊!」

 彼女達の前には大量のマジカルガイストが居た。

 その中に一人、生身で戦う男が居た。

「あれがレジストール……マヤ歴における『世界の終わりの日』が彼の生まれた日……」

「さすがに神奈のいってることは偶然だろうけど、恐怖の大王たるニューワールドにぴったりね」

「ちひろも中々いうわね。でも、あれだけの数をどうすれば」

 頌子がそういうや否や、どこからともなく魔法少女が現れる。

「これは日本中から魔法少女が!?」

 そんなちひろに、神奈は返す。

「いいえ、この数は日本で確認されている以上よ。おそらく世界中から魔法少女が集まっている」

「だから、私達はあいつを倒すわよ!」

 しかし、ちひろと頌子の攻撃はバリアで阻まれた。

「どうした?所詮お前らは自らのエゴで臓器用クローンを生み出し、そしてその手で滅びるのだ」

「そうはいかない!メイザードスター、ブラスター!」

 神奈の全身全霊を込めたエネルギー弾が、レジストールに向かって放たれる。

 それはバリアを穿ち、レジストールに当たる。

 レジストールはショックで地上に落下し、高速道路まで落ちたところで車に当たって死んだ。

 一方神奈も魔力切れで地上に落下。

 辛うじて直前で重量軽減を行うも、四股を骨折し重傷となったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る