第37話「元気づけの文化祭」

 旅行も終わり、それから二週間が経とうとしていた。

 このころになるとニューワールドの手で陥落していく国家は、

 先進国も含まれるようになる。

 まだ小国が陥落した程度だが、それでも神奈達のクラスメイトに暗い影を落としていた。

 文化祭が近いにも関わらず落ち込むクラスメイトを励ますために、

神奈達は文化祭でも精力的に働いていた。

 むろん当時の忍も文化祭の準備を手伝っていた。

「で、何をするんだ?」

「もちろん劇だよ」

「劇で魔法を使うのか。さすがというべきか何というべきか」

 で、と忍は神奈に問う。

「出店は中学生になってからだが、劇は六年で脚本上手く作れるのか?」

「そこは先生に掛け合っておくわよ」

「たく。まあこれから準備をしないとな。マジカルゲート、オープン!」

 そういうや否や、忍は杖を形成する。

「シャインシャワー!」

 しかしその光は正面に構えた杖の先へと集まった。

「ブレイク」

 光が弾け飛んだのを見た神奈はいう。

「戦う訓練ばっかしていたの?男の子だからかな」

「いざという時戦えた方がいいと思ってさ」

「なるほど。でも魔法は戦うためだけに使う物じゃない」

 そういうと神奈は腕を横に構えた。

「マジカルゲート、オープン!」

 杖が形成されると、神奈は杖を上空に掲げる。

「シャインシャワー!」

 上空に光があがり、それがシャワーのように降り注ぐ。

 その光で人が焼けたりはしない。

 何故ならあくまで光が降り注ぎ、それで人々に綺麗だと思わせるための魔法でできた物だからだ。

 それを見たちひろは思わず驚嘆する。

「綺麗ね……さすがは始源の魔法少女ね」

「褒めたってなにも出ないわよ」

 そんな神奈に、頌子は続く。

「まあ、これはこうするだけなら簡単だけどね」

 そして腕を横に構える。

「マジカルゲート、オープン!」

 頌子もまた杖を形成したのだ。

「シャインスノー!」

 光の粉が杖から舞い散る。

 要は光の魔法を散らしただけだ。

 それをみた忍の感想は普通だった。

「劇で使うならこれでいいのか。力みすぎたな」

 理香子はそんな忍をフォローする。

「そういうことは誰にでもあるのよ」

「忍には優しいのね」

 頌子は理香子を揶揄するが、忍にはその意味が分からなかったようだ。

「幼馴染なんだし、普通じゃないのか?」

 幼馴染だといっても昔からの親友、くらいにしか思ってない忍。

 鈍いような気がした人のために何度でもいおう。彼は小学生だ。

 小学生に色恋沙汰を理解しろというのは無理というのは、

耳にタコ……読み物だから目にタコだろうともしっかり焼き付けないといけない。

「まあ、ともかく準備を始めるわよ」

 頌子も鈍い忍を無理に懐柔しようとは思わず、準備に移った。

「でも、具体的には何をするんだ?」

「それは実際やってからのお楽しみよ」

 神奈はそういうが、今は思いついてないということである。

 それを見越したちひろは突っ込む。

「もし思いつかなかったとしたら、先生にいってみたらどうかしら?」

「その根拠は何なの?」

「そういうってのが根拠なのよ」

 ちひろの答えに、神奈はいい返せなかった。

「まあ、何するか決まってなくても演出は練習した方がいいだろ」

 忍はそういって周りの女子(といっても三人だが)を丸め込む。

「分かったわよ」

 理香子は忍に好意を向けていることもあり、普通に丸め込まれた。

「理香子には負けられないわ」

 頌子は同じ幼馴染同士として若干対抗意識があるようだ。

「なら私もやるわ」

 ちひろは単に乗っただけだ。

 ともかく、理香子は杖を形成してないので手を横に出した。

「マジカルゲート、オープン!」

 そして杖を形成すると、神奈がいう。

「それじゃあ、始めるわよ」

 神奈達は一斉に杖を振る。

「で、何をすれば?」

 しかしいざとなると何も思いつかない。ちひろが代表して問いただす。

 すると神奈は何か思いついたようだ。

「みんなで行くわよ。パーティーメイカー!」

 一人ではできないので全員でやるようだ。

 それを知った他の面々も一斉にいう。

「「「「「パーティーメイカー!」」」」」

 すると綺麗なテーブルが二つ出てくる。

 クロスはかかってないが、パーティーらしさは充分出ていた。

 しかし魔力を節約するためとはいえ、五人で二つというのは何かシュールだ。

 まあ、当然その分他に魔法を使えるので問題ないといえば問題ない。

 とはいえ絵面を想像するとシュールなのは変わらないのであった。

 そして文化祭当日。神奈達は舞台の上で立っていた。

「それはいいんだけど、何でシンデレラなんだ?メイザードだけに給仕か」

「『maid』じゃなくて『made』よ。忍には何度もいったよね?」

「でもウィザードって男の魔法使いだって話だけど」

 理香子の突っ込みに神奈は返す。

「メイウイッチだと何かごろ悪いし、そこは語感を優先したのよ」

「意味より語感を優先したっていうのは何だかね」

 ちひろは呆れるように呟いた。

「魔法を使うには語呂も大事なんだよ?」

 頌子は反論した。

 それに神奈も続く。

「そうよ。それにその方がかっこいいじゃん」

 という会話をしていると、そろそろ幕が開きそうになる。

「それでは、シンデレラが始まります」

「シンデレラは舞踏会に憧れる少女ですがいつも灰だらけ。シンデレラという呼ばれ方もそのせいです」

 語り部は誰とも分からない青年の声だ。

 まあ、先生の声なのだが。

(そういや、シンデレラって『灰被り』って意味だったな)

 忍は納得するように一人ごちた。

「シンデレラ、お掃除やってきなさい」

 そういうちひろの言葉に反応したかのような口ぶりで、語り部はまくしたてる

「ともかく、念願の舞踏会の日だっていうのにシンデレラはお掃除を押し付けられてしまいました」

「きれいなドレスも持ってない彼女は、お掃除を終えても舞踏会に出れる確証はありません」

 シンデレラ役は理香子だった。

「あーあ、折角の舞踏会なのにな……」

「するとそこに二人の少女が現れました」

 その語り部の言葉を聞いて忍は内心突っ込む。

(原作と違う!)

 突っ込みには答えず、語り部は続ける。

「一人はシンデレラの死んだ母親の幼少期に瓜二つです。どうやら、ゴーストみたいです」

 幽霊扱いされていたのは頌子だった。冷静だからって幽霊扱いはどうよと忍は思った。

 もう一人は神奈だった。おそらくシンデレラの魔女だろう。

「私は魔女。といっても代価は請求しないわ。既にあなたのお母さんが命と引き換えにしたからね」

 何気にヤバいことをいっている気がするものの、突っ込んだら負けな気がした。

「命と引き換えって……」

「ああ、安心しなさい。どのみち先は長くないといってたし、魂を取る真似はしてない」

 理香子の指摘は内心から出た物なのかもしれない。

 そんな理香子を置いてきぼりにするかのような口ぶりで神奈は説明する。

「ともかく、あなたがとても困った時は力になってくれといわれたの」

「ひょっとして、それが今日ってこと?」

「その通りよ。私が変なことをしないか見張っていたけど、そのくらいは気にしてない」

 意外にも律儀な魔女であった。

「で、私も何か支払えとかいわないよね?」

「余計な対価は貰わんさ。魔女には魔女の誇りがある」

 その間頌子はは無言だったが、ついに口を開く。

「ドレスは私の物をあげるわ。後は魔女に任せて」

「そうね、掃除はやっておくわ。この馬車でゆっくりしていって」

 神奈がそういってカボチャから馬車を作りだす。

 馬はノラの馬を使っている、ことにしている。

 もちろんさすがにカボチャの馬車を魔法で再現できない。

「マジカルゲート、オープン!」

 幕の裏で魔法を使うべく杖を形成した忍。

「シャインスノー!」

 光の雪がシンデレラを包み込む。

 そして幕が暗転する。

 着替えは魔法を使わずにやるからだ。

 ともかく着替え終わり、馬車に乗ると場面は城へと移る。

 当然というべきか、王子様として忍が出ていた。

「そこの美しいお嬢様、私と一緒に踊りませんか?」

 忍は劇の中とはいえ仰々しい言い方をした。

 その後劇は滞りなくながれ、最後にシンデレラガラスの靴を履きなおす。

 そうして王子様とお姫様は結ばれ、めでたしめでたしで幕が閉じたのだった。

 最初のちょっと原作と違う部分はまるっきりスルーされたのはいうまでもない。

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