第34話「帰るべき場所」
「ようやく来たのね。心配していたわよ」
そんな神奈に忍は返す。
「僕と君は同い年だろ。気兼ねなく魔法使えるからって年上面はさせない」
「一応私の方が先に生まれたんだけどね」
「双子は先に生まれた方が、姉もしくは兄になるんだっけな」
「まあ性別違いの双子だから後に相続で揉めたりはしないらしいけど」
「家長は長男の僕になるから、か。小耳に挟んだ程度だがな」
そんな忍に頌子は返す。
「まああなたが家長じゃなくても養ってあげるわよ」
「まるで僕を婿にするような感じだし、今の君は小学生だろ」
重ねていうが、この忍はタイムスリップもタイムリープもしていない。
来年から中学生ということでちょっとからかっただけだ。
だが、頌子は彼に問いただす。
「まさかあなた、タイムリープでもしてきたの?」
「そんな魔法はないだろ。レンジに携帯電話を繋げたらできるといってた作品もあるらしいが」
「それってテレビも必要なんじゃなかったっけ」
頌子の返しに忍は続ける。
「しかもブラウン管テレビだったな」
「ブラウン管テレビ……そんな物用意できないわよ」
神奈があきれるようにいったので、忍はそれに続ける。
「しかもそれは48時間しか遡れないし、まあそれで過去に飛べなんて無理な注文だ」
「ところで、本当に時間を戻せないと思っているの?」
ちひろの問いに忍は返す。
「この世界はゲームじゃないしファンタジーやメルヘンでもない。魔法はメルヘンかもしれないが」
「だが魔法もあくまで物理的に何かを操作するだけ。科学でもやろうと思えば再現できる」
それに神奈が続ける。
「ただ人間サイズでは本来不可能なことができる、っていうのはかなり大きいわ」
「そうだな。重力操作は今の科学では不可能な現象の最たるものだし」
「服を用意せず着替えることだってできない、よね」
「ともかく、僕も食事をさせて貰う。いただきます」
そして忍も持ってきた食事を食べ始める。
神奈達は食事しながらも話をしていた。
「例えば花粉から杖を作るなんてことは理論上可能でも現実的じゃない」
「それをたやすく可能にするのが魔法の『魔法』たる所以なんだがな」
そんな忍に神奈は続く。
「そうそう。杖を作るのは意外と容易なのよね。花粉ならどこにでもあるからかしら」
「毎回やっていることだから気にしてなかったけどね」
そんなちひろに忍はいう。
「そんなんだから科学者は研究で行き詰まってる。一応マジカルガイストのような道具は作ってるが」
「そんな話聞いてないけど」
そんな神奈に忍は返す。
「僕は男性でも魔法が使える希少な例だからな。保護しようとしている政府の話は嫌でも聞く」
「それって国家機密じゃないの?」
「いや、別に公言しても構わないともいってた」
「何で?」
「国家機密なのはあくまで研究成果だ。研究段階だから絵空事にもなりえるといっていた」
ピンとこない感じの神奈達だったため、頌子が率先して話を聞こうとする。
だがそこに理香子がやってくる。
「忍ったらまた魔法の話をして」
「理香子、広島に来れたのか?」
「お母さんに無理をいってきたけど、迷惑だったかな?」
もちろんこの理香子もタイムスリップしたわけでなく、当時の理香子だ。
「迷惑ってわけじゃないけど、びっくりしたな。ホテルを教えたのは僕だけど本当に来るなんて」
「忍、理香子にここを教えたの?」
「落ち着けって、頌子。理香子は僕を心配してるだけで、ストーカーまがいのことはしてないし」
「どこ行くか教えないと怒られるってのは?」
「友達なんだし、そういうのは教えなきゃハブってるようで良くないだろ?」
「それもそうだけど……」
鈍い上に忍はあんり女心が分かってないと思う頌子だが、
気まずくなるので口には出さなかったのであった。
「ともかく、何の話をしてたの?」
理香子にそう聞かれ、忍は答える。
「続きからなら、何でも『マジックロッド』という物を作っているらしいってことだ」
「マジックロッド……つまり、魔法の杖ってこと?」
忍の言葉に頌子は疑問を持つ。
「いってしまえば魔法の効率化を図る杖だよ。杖を形成せずとも魔法を使いやすくできる」
「それだけなの?」
「マジカルガイストの要領で飛行に必要な魔力を補ったりすることもできるらしい」
「つまり分かりやすくいえば外部電源ってことね」
神奈の例えに、忍は頷く。
「かみ砕いていえばそうなる」
「まあ、一定の魔力を常に補う杖っていうのは中々便利そうね」
「頌子がいう以上だ。マジックロッドはそれぞれの適正に合わせて形成することもできる」
「杖以外の形にもできるってこと?でも、セキュリティーが心配ね」
そんなちひろに忍は返す。
「そこは問題ないらしい。魔力の波形を登録し、それ以外の魔力では動かないようにするといってた」
「そんなの、クローン作られたらヤバいんじゃないの?」
「ちひろがそう思うのも無理はないが、そこは大丈夫だ」
例えば、と忍は続ける。
「双子でも指紋や静脈は一人一人違うように、魔力の波長も同じにはならないという」
「まあ、得意とする魔法が似る傾向はあるらしいがな」
それって、といわんばかりに頌子は問いただす。
「姉妹とどう違うの?」
「血縁者の魔法は似る場合もあるが、双子だと一卵性か二卵性かに関わらず魔法が似る傾向が強い」
おそらく、と忍は続ける。
「双子には一卵性二卵性問わず何らかの形で独自の波長を持っているんだろうと思う」
「でもそのソースって要するにあなたよね?」
頌子の突っ込みに忍は返す。
「一卵性双生児は性別も同じになるんじゃなかったか?」
ここに居た人々は何もいえなかった。
その可能性を指摘すると、彼は確かめようとするからだ。
その沈黙は神奈が破った。
「仮に一卵性双生児の性別が異なるケースがあったとしても、性別が違うとそういうのも離れると思う」
「一卵性双生児の性別が異なっていても性別が違うと離れる、か」
忍は妙に納得したようであるが、タイムトラベルしていないことは再三いっておく。
過去に介入したんじゃないかと変に勘ぐられてしまうのはいけないし、
そういうことが起こってないのに起きたよう錯覚させてしまうのもいけないからだ。
要するに忍はいいくるめられたわけだ。
まあ彼は小学生だしいいくるめられてもおかしくはない。
ともかく忍たちは取ってきた料理を話ながらも食べていた。
「ねえ、忍?」
「どうしたんだ姉さん」
「もしそのマジカルロッドってのができたら、戦うつもりなの?」
「姉さんは僕に戦ってほしくないんだろう?だから姉さんが元気なら家で待つ役目を背負うさ」
「ありがとう、忍」
しかし現在神奈は戦えず、忍が戦うこととなったのだ。
それには現在の理香子も思わず唸った。
「妙な取り合わせもあったものね」
「姉さんが戦えなくなったなら、待っていられなくなったってことだからな」
だけど、と忍は続ける。
「姉さんに無茶はしないと約束した。絶対とはいってないがな」
「いざという時は無茶でもやるつもりなの?」
「相手は侵略者だし、そのくらいの心得はないとな」
だが、と忍はまくしたてる。
「死ぬつもりはないさ。僕はみんなと一緒に生きて帰る。さもなきゃ地獄行きになりそうだしな」
「妙な死生観ね。あなたは」
「人は生きられる限り生きるべきだ。たとえどんなにつらくても、生きる義務がある」
そんな忍に理香子は率直な意見を述べた。
「まあ、それを否定はしないわ。安楽死とかは未だに賛否が分かれているし」
「そういってくれればありがたいかな。考えに同調してもらえるのはやっぱり助かる」
2022年に話を戻し、神奈達はバイキングで沢山の料理を食べた。
そしてその翌日、神奈達は宮島へ行くため電車に乗っていた。
「広鉄で行く方が安いのね」
「横川まで歩けるなら、横川まで歩いた方がいい気もするけど」
そんな忍に神奈は突っ込む。
「私達は大丈夫かもしれないけど、お母さん達が無理よ」
「帰りも広鉄だから一日券は買わないんだったよな」
「もう一泊するんだっけ?でも見るところない気がする」
「岩国辺りに何か洞窟みたいな物があって、その近くには料理屋があるな」
「ってことは岩国まで行くのね。節約しているんだか豪勢なんだか」
「岩国から広島まで在来線に乗って、広島から新幹線に乗るんだが。覚えてないのか?」
忍の指摘に神奈は返す。
「覚えて無いわけじゃないわよ。改めて考えると豪勢だなって思っただけ」
「移動に時間をとられまくるのは内緒だ。多分往復二時間はかかると思う」
そんな忍にちひろは驚く。
「往復二時間!それって短く見積もってるの?」
「まあな。ロープウェイに乗るならそれも込みで考えなきゃだが」
「頭が痛くなるわね……」
頌子も思わずうめく。それを見た忍はこう続ける。
「まああくまでそういう『想定』だ。実際どうなるかは分からない」
「想定でも気が遠くなるわね」
というわけで宮島に向かう神奈達。その目に映るのは広島の町々であった。
「さすがに郊外ともなると田舎っぽさが出るわね」
「広島は広いからな、神奈。広い島というだけはある」
少々寒いギャグに頌子は返す。
「上手いんだか駄目なんだかわからないわね、それ」
「いずれにしろ、まだ宮島はおろか宮島口にすら付きそうな気配がないわ」
「ちひろがいうとおり、廿日市市に着いてそれから宮島口だもんね」
そんな神奈に忍は続ける。
「まあ、宮島までの旅を楽しむのに僕達は若いのかもしれない」
この忍は正真正銘の小学生だし、若いというならむしろ妥当だろう。
そして神奈達は宮島口に着くと、フェリー乗り場へと向かう。
「ここまでもかなり長かったわね」
「神奈のいうとおりだが、ここまで来れば宮島までは割とすぐだ。フェリーがあればな」
「十数分に一便だっけ」
そんな頌子に忍は頷く。
「そうだ。まあフェリーを頻繁に行き来させるのは難しいからな」
「バスよりもずっと大型だもんね」
ちひろは納得したようであり、それを見た忍は安堵する。
「その代わり車も乗せれるけどな。まあ広くはない島だし、車は必要ないと思う」
それでも、と忍は前置きする。
「お年寄りなんかはさすがに体力が持たないかもしれないけど」
「で、後何分なの?」
理香子の問いを受け、忍はスマホの時刻表を見る。
「10分だから急ぐことはないな。5分あれば着くし」
「というわけなら、急がば回れよ。慎重に行こう!」
理香子の号令で神奈達はフェリー乗り場へと歩いていく。
そしてフェリー乗り場にたどり着くと、神奈はフェリーに驚嘆していた。
「中々大きいフェリーね」
「豪華客船ってほどじゃあないけどな」
しかし理香子はそれを否定する。
「いいえ。豪華客船ほどじゃないにしても、相応の大きさはあると思う」
「こういう定期船は大きい物だぞ?さもなければ車を乗せれない」
忍の説明を聞いた頌子は意外そうだ。
「車の利用者が多いの?」
「こういう定期船は生活にも使うからな」
「世界遺産に人が住むのは京都っていう例もあるから驚かないけど、島ともなるとね」
頌子は意外だということが抑えきれなかった。
「昔は島自体が神様として祀られていたらしいしな」
それには理香子も驚いた。
「島自体が神様って、随分とスケールが大きいのね」
それを見た忍は解説するような口ぶりだった。
「八百万の神様っていうから、島そのものを神聖視したんだと思う」
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