第32話「一日目の終わりに差し掛かり」
「この『建物だったもの』……『原爆ドーム』の名前は伊達じゃないのね」
そんな神奈に頌子は同意する。
「ドームというからどんな物だろうと思ったけど『工事中で止まったままのホール』みたいね」
「これでも80年前には県の建物だったわけだけどね」
ちひろはそういうが、頌子はいう。
「何も知らなきゃ『最初から廃墟しかなかった』かのように見える。だからこそ痛々しい」
「下調べで見る限り、爆心地のほぼ真下だったらしいわ」
「意外と頑丈なのね」
頌子は感心するが、神奈は返す。
「真下だったから熱にあまり晒されず、爆風も通り抜けたらしいの」
「中に人が居たとしても無事じゃ済まなかったかもね」
「頌子のいう通り、建物内の人は全員死亡したわ」
「遠い昔、だけど今も跡が残っている」
神奈のいうことに、頌子は続く。
「あったか怪しい虐殺で日本は責められたけど、証拠が残ってるのにアメリカは責められないの?」
「民間人すら巻き込んだことは許されるべきことじゃない。だけどその辺は棚上げしてるの」
「日本も色々やってはいるからね」
神奈の言葉にちひろは同意する。
「例の虐殺の真偽はともかく、謀殺やら何やらでとんでもないことをしでかしたからね」
「まあナチスよりはましと思うけどね」
「ナチスは酷いことしたわよね。日本ではユダヤ人を逃がした外交官が居たというけど」
「同盟国でもそのへんは違っていたのかしら」
「ネオナチとかが今でもくすぶっているというから末恐ろしいわ」
そんなちひろに頌子は返す。
「でも肝心のヒトラー・ユーゲントは自殺したんじゃないっけ?」
すると神奈がそれに答える。
「スターリンの持っていたヒトラーの頭蓋骨は女性の物だったらしいし脳は残っていても可笑しくない」
「その『脳』が生きているかどうかは神のみぞ知るところだけどね」
現在。理香子は神奈がネオナチについて話していたことを話した忍に問う。
「あなたはどう思うの?」
「分派の多いネオナチを纏められる人間はヒトラーぐらいの物だろう」
「だからこの件には関わってるはずだと?でもどうやって脳だけで」
「脳を氷漬けにして保存しといたんじゃないか?」
「想像するとシュールね……」
ちなみにこれは当時の神奈もいったことだった。
「ナチスの技術は世界一ってどっかの漫画でいってたらしいけど、だとしたらすごいわね」
ちひろの反応に頌子が続く。
「でもそうだとしても氷漬けの状態から復帰させることは容易じゃない」
「脳だけを生かすのは確かに難しい。私は小学生だし、どうすればいいのかなんて分からないわ」
「脳だけ生かす方法を見つけた学者は間違いなくノーベル賞が取れるわよ……」
神奈の言葉にちひろはそう突っ込んだ。
脳だけ生かす技術は魔法があってなお実現の目途が経ってないからだ。
一応技術上は脳移植が可能にはなっているものの、
それにしたって凍らせた脳を解凍してすぐ移植しなければならないのだ。
むろんレンジで解凍しようものなら脳にダメージが入るので、
冷凍マグロのように水で丁寧に解凍しなければならないのだ。
まあ道徳とかの問題で実現には至っていないとされているが、
どこかで脳移植でTSなんてことが起きていたりするかもしれない。
ちなみに脳移植した人間の寿命はどうなるのかとかも未知数だ。
もし移植し続けることで生きながらえられるなら実質不老不死も可能だが、
脳の老化が肉体の老化と別に起きるならそうはいかない。
ともあれ公には実現できてないことなのでそのへんのデータも存在しない、
脳移植はそういう技術なのだ。
なおコールドスリープは未だ安全な解凍方法が判明していないのだが、
眠らせるだけなら安全に行うことができるようになっていたりする。
解凍方法が分からなければ眠りっぱなしではあるが。
まあ長々と書いたが、脳だけ生かすことは理論上可能でも技術が追いついてないわけだ。
脳移植する際は幾らか生きながらえるが、心臓移植と同様に四時間が限度だ。
脳移植で身体を変えられるなら魂はどこにあるのかとか、
色々難しい話もあるが脳移植が理論だけでなく実際に可能な以上そういう理屈ではないのだろう。
魂があるとしたらそれは脳とセットなのだろうし、
魂なんて物は無くて死んだらそれっきりなのかもしれない。
まあ後者だと救いが無さ過ぎるし、前者であると信じたいものである。
だが死んだ人間はどうなるのかなんてことは誰も解明できていない謎であり、
それこそ想像でしか考えられない場所なのだ。
一方で人間は誰しもいつかは死ぬわけだから、『死後の世界』は大きな問題なのである。
そしてこれにはもう一つ分からないことがある。
人間には誰しも魂があるとするなら、クローンにも魂があるはずである。
しかし人為的に作られた存在にどうやって魂が宿るのかは当然ながら謎になる。
これも解明不能な事実といえばそれまでなのだが。
「私達は戦うわ。『平和』とは程遠いことかもしれない、それでもみんなを守りたいから」
そして、神奈は原爆ドームの惨状を見て改めて誓っていた。
ニューワールドの行為はこんな廃墟を作りだす殺戮であるため、
それに対抗するなら力でもって対抗するしかない。
だからこそ神奈達は戦いを誓う。
だがそれは戦いの先に『平和』があると信じればこそである。
「こんな物がもう二度と生まれないように戦う……矛盾するかもしれないけど、それでも存在し続ける」
そんな頌子にちひろが突っ込む。
「どこのアニメのセリフよ、それ」
「もう、それは突っ込んだら負けよ」
そして神奈はいう。
「私はTOGOに行くわ。平和記念資料館は、さすがにショックが大きすぎる」
「そうね。さすがにゴールデンウイークで見るような物でもないかな」
頌子も神奈に同意し、TOGOに向かう。
そして幾時かパケモンセンターで過ごした後、
神奈はホテルへと向かう。
「明日はいよいよ宮島か……水族館楽しみだな」
「他に見どころは……厳島神社は楽しい場所ってわけじゃないし」
そんなちひろに神奈はこう返す。
「それでも宮島を巡るのはいい経験になると思うわ」
「ロープウェイで弥山を上るの?」
「頌子のお母さんは?」
「興味がなさそうだったから、つまり無理ってことね」
ともかく、神奈達はホテルにたどり着く。
「中々のホテルね。さすがは全国チェーンってところかしら」
「地方都市を舐めたら怪我するわよ、ちひろ」
「神奈は大げさなんだから……で、別々の部屋だっけ」
頌子の質問には神奈が答えた。
「六人部屋なんて物はさすがにないから、二人で一部屋よ」
「四人部屋とかしかないのよね……ちょっと不便かも」
そんな頌子にちひろは突っ込む。
「五人部屋があるホテルならあるけど?」
「そういうホテルは珍しいしさ、ともかく今日は晩御飯を食べて寝よう」
そんなちひろに神奈は突っ込む。
「その前に特訓しないと」
「特訓?どうやって」
「空でやるに決まってるじゃない」
冷静に返す神奈に突っ込んだのは頌子だった。
「みんなメイザードのことは知っているといっても、騒ぎになるんじゃない?」
「それもそうね。なら、近場の総合体育館で杖術を練習ね」
「結局練習はするんだ……」
ちひろは少し引き気味だった。
「私達の肩にはみんなの命がかかっているんだから、当たり前よ」
神奈は真面目に諭すが、頌子はこう割り込む。
「でも肩肘ばっか張っていても魔法は使えないよ」
「夕食はバイキングだから、運動してその分食べるっていうのもあるの」
そんな神奈にちひろは呆れたようないい方をした。
「運動ついでに練習するっていうのはどうかと思うけどね」
「やるべきことは分かってるわよね?」
そんな神奈にちひろは突っ込む。
「練習するだけなのに力み過ぎじゃ……」
「ちひろ、そうやって甘く見てると駄目よ」
「神奈はこういう時厳しいのよね」
そんな頌子に神奈は返す。
「厳しくたっていいじゃない。それに運動した方がたくさん食べれるよね?」
というわけでもった竹刀を杖に見立てて振り回す。
面は付けてないが一応銅の部分はガードしている。
万が一ということがあってはいけないからだ。
竹刀を振り回し、それがぶつかる。
あくまで杖の代替なので剣筋とかを考える必要はない。
何故なら剣は鈍器であって刃物ではないからだ。
現在。それを忍から聞いた理香子はオウム返しのような返しをした。
「殴ってマジカルガイストを弱らせるって、知ってはいたけど中々シュールね」
「杖も上手く使えば充分な破壊力があるからな。刃物と違って打撃だから機械には弱いかもしれないが」
「当時はまだそこまで確立してないものね」
「そういうことだ。だがその状態でもこの国を守るため戦い続けたのは凄いと思う」
「自覚はあまりなさそうだったけど?」
「彼女達も自然体だったしな。それこそニチアサで放送してもいいんじゃないかってくらいには」
「それはどこの魔法少女よ」
理香子の突っ込みに忍は返す。
「彼女達が魔法少女かは議論されているがな」
「それいったら何か特定されそうだけど」
「こういうのは言及しなけりゃいいんだって」
「メタいことまでいいだしたら別の意味で怒られるわよ」
過去に話を戻し、神奈が特訓を終えてホテルへと戻った時点から進めよう。
「うわー、豪勢な料理ばかりだなー!」
「神奈がテンション上がるのも分かるわね」
頌子は若干冷静だった。
「そういうのは忍の役割じゃないの?というか忍は今何をしてるの?」
「忍ならお父さんと一緒にここで合流する予定だけど。頌子、それにちひろのお父さんは?」
「家でゴロゴロしたいんだってさ。働きづめとはいえ、幻滅するわ」
「頌子のお父さんも?」
「ちゃんとした収入があるっていうのはいいことよ。世の中にはワーキングプアの人も居るんだし」
神奈の言葉にちひろは引っ掛かりを覚えた。
「まるで父親の収入が低いせいで家族が不和になった人を知っているかのようなことをいうわね」
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