第31話「花の祭典」
「やっぱりケバブは少し辛いわ。まあ、分かっていたんだけど」
神奈の感想に、頌子は肩をすくめる。
「辛うまって奴だからね。私達にはちょっときついかな」
「まあ、とても辛いってわけじゃないけど」
「カレーの中辛とどっちが辛いの?」
そんな疑問をぶつけるちひろに、神奈は冷静な対応をした。
「カレーの中辛よりは辛くないかな」
「なるほど、まあ普通に辛いって感じね」
「とにかく、もう少し見て行こう」
そんな神奈に、ちひろは舞台を見た感想を述べる。
「見事に肉ばっかりね。私達の中にベジタリアンは居ないけど」
「まあ、人の食べる物にケチつけていいのは医者かその類の人間だけよ」
「神奈ってそういうのはしっかりいうのね」
「弟の影響かな。まあ私もただ流されるままニューワールドと戦っているわけじゃないともいえるかも」
そして神奈達が少し屋台を見回っていると、アイスの屋台が見える。
「夕張メロンアイス……美味しそうね」
「バニラとのハーフだけどね」
テンションが上がった神奈にすかさずちひろが突っ込みを入れる。
「それでも夕張メロンは有名なんだよ」
「いい意味でも有名だけど、悪い意味でも有名ね」
妙に詳し気なちひろに頌子は突っ込む。
「絶対それってネット情報だよね?」
「否定はしないわ。夕張って寂れた町って書いてあったから」
「夕張が寂れたのはもう昭和のころの話よ。今は随分盛り返してきてるってニュースでいってたから」
そんな神奈に頌子は返す。
「そういえばそういうニュースもあったわね」
「そういえば、で済ませるのね。まあいいけど」
その後も肉を食べたり、ポテトを買ったりで大盛り上がりの神奈達。
そして彼女達は平和記念公園に辿り着いた。
「ここが原爆の落ちた場所にできた公園……」
感心している神奈に、頌子は聞く。
「そういえば、ここって残留放射線とかはないのかしら」
「上空で炸裂したから残ってないんじゃないかな。ここでの健康被害は聞かないし」
「神奈もそこは知らないのね」
「ここで調査した人によれば残ってないらしいし、放射線は上空に散ったと考えられるわ」
そんな神奈に、頌子はあることを思い出す。
「もしかして、それって『黒い雨』?」
「そう。それを浴びた人は放射線に蝕まれたという、禍々しい雨」
ちひろは愕然とする。
「まるで核兵器の人体実験みたい……」
「キリスト教が生んでしまった人種差別のなれの果てみたいな物ね」
平然といいのける神奈だが、過去を過去としてしか知らないわけだし無理もないだろう。
「どんな宗教だって完璧とはいえないわ。信じる物の違いで対立を生んでしまうことだってある」
けど、と神奈は続ける。
「文字も無かったような時代には、そうやってルールを守らせるのが一番だったのも事実よ」
「何というか、歴史学者みたいね」
率直な頌子の感想に神奈はいう。
「お父さんの受け売りだけどね」
小学生にしては難しいことをいっていたが、ようはそういうことだ。
しかし子は親の背中を見て育つ物なのだ。
「受け売りとはいえそれをいいきるってのも中々難しいと思うけどね」
頌子の母親はそうひとりごちたのだった。
「とにかく、ここが平和記念公園ってことは……」
そんなちひろに神奈が続く。
「そろそろ見えるころね。原爆の惨状を今に伝える負の遺産。原爆ドームが」
広島県産業奨励館跡地、通称原爆ドーム。
正式名称で呼ぶ人は少ない。
というかむしろ原爆ドームで世界遺産にも登録されている『残骸』。
もちろん残骸といっても跡形もなくなっているわけではない。
壁と骨組みを残して佇むその『建物だったもの』こそが『原爆ドーム』と呼ばれる物だ。
町の中心にあるものであるからこそその存在はひときわ異彩を放ち、
見るからに痛々しかった。
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