第29話「新幹線の車内」
まあ世の中への反発くらいなら可愛い物である。
ニューワールドの人々は世界に宣戦布告をしロシアを陥落させていた。
それから日本以外の国も占拠していくわけだがこの時期はまだそこまで行ってない。
だがロシアという大国を落とした、という事実はやはり衝撃的な事実であった。
「いずれにしろ、ちひろが上手く立ち回れそうで何よりよ」
神奈は安堵したような口調で頌子にそう返していた。
「鉄使いってのは結構不便ね。旅行先で襲われたらどうするのかしら」
「修学旅行については今日考えなくてもいいよね?頌子は物騒なんだから」
現在。理香子にニューワールド襲来から一週間の間の話をしていた忍は彼女に指摘される。
「要するに、三幹部が割と律儀だったってこと?」
「今となってはそれも分からないけどな。一ついえるのは僕がその時姉さんに庇われてたことくらいだ」
「あなたが戦っていたからといって、戦局は変わらなかったと思うわ」
「それは僕も同感だ。だが変わっていた可能性がなくはない」
で、と理香子は続ける。
「結局ニューワールドとの戦いはどうなったの?」
「そりゃもう『gdgd(グダグダ)』だったさ。下手な魔法少女アニメよりもな」
「『gdgd』……いい得て妙ね」
「感心するところはそこか?だがいかんせん他にいえるものはない」
「ところで、ネオナチス襲来までの間敵は出なかったの?」
理香子の疑問に忍は答える。
「何か北海道の方でアイヌ民族の末裔と小競り合いがあったらしいが、僕も良く分からない」
「ただ、どうもそこでも『放課後のメイザード』を名乗った奴がいるらしい」
「あなたじゃないの?」
「ああ、僕じゃないことは政府も確認している。僕は名古屋に居たし、姉さんは絶賛リハビリ中」
「だから『放課後のメイザード』に憧れた赤の他人じゃないかと見ているが」
「『が』?」
不思議そうな表情の理香子に忍は返す。
「僕が彼を『二代目メイザード』として認めるよう掛け合っているところだ」
「『彼』?男の子なの?」
「その話より、まずはニューワールドとの戦いについての説明が先だ」
「ずるーい!」
「話に一貫性がなくなると何話してるんだか分からなくなるからさ」
忍がそういったので、理香子は根負けしたようだ。
時を戻し、魔法歴4年5月2日。
神奈達は旅行のこと頭が一杯だった。
「いやっほー!」
「はりきりすぎよ」
「そういわないでよ、ちひろ」
頌子は今日がニューワールドの来る日と知っていたが、
旅行を楽しみにする心は分かっていたので抑え役になっていた。
「私はアルファール」
「俺はデルタジア」
「そしてこのオメガリア」
「お前らとの腐れ縁もここまでだ!」
仰々しいアルファール達に、神奈はこう突っ込む。
「旅行前に来るっていうのは空気は読めているんだかどうか」
「旅行中に来るよりはましだろう?」
するとアルファールは自動車を元にマジカルガイストを形成していたのだった。
「そうはいかないわよ、みんな!」
神奈がそういうと三人は右手を横に突き出し、一斉にこう叫んでいた。
「マジカルゲート、オープン!」
すると小さいピンクの魔法陣が右手から現れ、そこから杖が取り出される。
杖の先には魔法陣があった。
周囲の花粉を材料として杖を形成していたのだった。
そして彼女たちは杖を正面に構えるとこう叫んでいた。
「マジカルゲート、コネクション!」
すると彼女たちが光に包まれ、衣服が魔法少女のそれへと変化する。
制服を素材として衣装が形成されていくのだった。
「魔法少女メイザード☆かみな!」
「魔法少女ウインド☆しょうこ!」
「魔法少女アイアン☆ちひろ!」
「我ら、放課後魔法少女隊!」
そして神奈達は自動車のマジカルガイストに向き合う。
「行くわよ!アイアンブレイク!」
ちひろは魔力の行きわたってない部品であるワイパー部分を形成し、
それを内側に出っ張らせることでフロントガラスに衝撃を与えた。
「メイザードスター!」
続いて神奈が☆の形をしたエネルギー弾をマジカルガイストに飛ばす。
が、マジカルガイストはフロントガラスが砕けただけだ。
「さすがに自動車を元にしただけあって固いのね。でも!」
頌子は接近して、杖を自動車の座席で構える。
「ウインドブレードノヴァ!」
杖から放たれる風が刃のように座席を貫き、
マジカルガイストは地面に向かって落ちる。
だが落ち切る前に爆発し、周囲に被害はでなかったのである。
「無事ニューワールドも倒したし、旅行の準備をしっかりやらないとね」
「それにしてもどこに行くの?修学旅行は東京だって話だし」
愛知県の小学校なので東京は決して遠くないのだ。
「それなんだけど、広島に行こうかなって」
頌子はこう指摘する。
「あそこに目立った遊園地はないわよ。観光地ならあるけど」
「原爆ドームに宮島だっけ?」
ちひろはそういうが、神奈は突っ込む。
「原爆ドームは負の遺産よ。まあ、見ておくべき場所ではあるかもしれないけど」
「まあ花の祭典に行くなら嫌でも見るからね」
「人が集まるけど、何がしたいのかしら」
頌子はちひろに頷く。
「広島にもある飛行機会社のホテルへ泊まるのと、やっぱりああいうイベントはいかなきゃ損だからね」
神奈の適当さに周りは少し引いた。
「でも、宮島水族館もあるし広島には何もないわけじゃないのよ」
「少なくとも群馬よりはね」
ちひろの返しに頌子は突っ込む。
「広島には尾道という観光名所があってね」
「あれ、何で私達広島に詳しいんだろう?」
ちひろの疑問に神奈は答える。
「知らないわよそんなこと」
真面目な返しに周囲は何故か腰を抜かしたのだった。
それはさておき、いよいよ広島への新幹線に乗り込む神奈達。
名古屋から広島はだいたい三時間だと思われる。
間違っていても筆者は責任を取れない。
「駅弁、楽しみだなー!」
そんなちひろに頌子はいう。
「広島にはもみじまんじゅうがあるっていうけど、どんな味かな」
「揚げもみじっていうものが宮島で売ってるとかネットでいってたわ」
神奈がそういうとちひろはそれにこう突っ込む。
「あれを揚げるの?想像したら中々シュールね」
「私もそう思うけど、あと広島にはレモンを使ったお菓子とかがあるって聞くわね」
「名称が出てこないやつね」
そんな頌子に神奈は返す。
「出したらまずそうだけどね」
「妙なところで気を使っているのね」
「聞いてる人によってはそういうのを気にするから」
神奈は冷静だが、要は大人の都合である。
メカニカルペンシルとかステープラーとか、聞きなれない言葉を使わないといけないのもそのせいだ。
ドレミの歌が適当になったのもそれが関係している。
「いずれにしろ、そろそろ新幹線が来るわね」
神奈が見たのは新0系。
○系のネタが無くなった日本鉄道(愛称NR)が新たな新幹線のスタンダードとして、
『リニアモーターカーとの差別化を明確にする』意図もあり付けられた名前である。
0系は始源の新幹線だけに、割と大事にされているようである。
さて。新0系だが、肝心のスピードはN700系と変わらない。
『車内環境を快適にする』がモットーであったためであり、
全席コンセント付きでカートのメニュー表が置いてあるのが特色だ。
カートのメニュー表には専用Wi-Fiのパスワードが付記しており、
車内ならいつでも快適にWi-Fiが使えるのも売りである。
まあそれ以外は外観もN700系をシックにした程度だったりと差異が少ないものの、
リニアモーターカーとは異なる『痒いところに手が届くサービス』を売りにするなら充分だった。
「今何やってるの?」
神奈は頌子の問いに答える。
「プチットモンスター、略して『プチモン』よ」
「第八世代だっけ一時期はメガカンゲルーが猛威を振るってたらしいけど」
「第七世代で対策されたけど、その対策が連続技無効の高耐久」
神奈はさらにつづける。
「『強いプチモン、弱いプチモン、っていうのは人の勝手』とはいうけどお気に入りが使いづらいのよ」
「弟がメガプランター押しだっけ?かくいうあなたは」
ちひろの疑問に神奈は返す。
「私はフェアリア押しよ」
「分かるわ。あのリボン可愛いものね」
「で、今レートどのくらいなの?」
「頌子、レートはあまり聞かない方がいいわよ。と、いいたいけど2000あるからいいわ」
「あなたはプチモン廃人だったっけ」
頌子はいやみったらしくいった。
「最近は育成環境も良くなってきたのよ。といっても育成効率の上昇だけど」
「さすがに息の長いゲームだけはあるわね」
頌子はゲームに感心したようである。
「とはいえ新幹線の旅は長いし、暇つぶしに構築考えようかしら」
「ニューワールドのこと忘れてない?」
ゲームに熱が入る神奈にちひろが突っ込むが、こう切り返される。
「休む時はしっかり休まないと駄目になるのよ」
「お互い小学生なのに、なんでこんな話をしているんだろう……」
ちひろも思わず自分で自分の発言に驚いていた。
「日本の国防ってのにかかわっているからかな?来年からは中学生なわけだし、責任感はあるかも」
「『かも』ですませていいのかしら」
頌子はある意味能天気な神奈に突っ込みを入れた。
「何か買い物はありますかー!」
するとカートが通る。
「私は愛知県の駅弁を」
「私は大阪府よ」
「私もよ」
神奈だけ愛知県の駅弁を買うこととなったわけだが。
「何で愛知県の?いつでも買えるじゃない」
頌子に続いたちひろは問いただす。
「駅弁って滅多なことじゃ買わないしさ。修学旅行だと横浜のにする予定だし」
「なるほどね」
ちひろが納得したのを見た神奈はいう。
「それじゃあ」
すると三人は手を合わす。
「いただきます」
一方、彼女達の保護者はというと。
「ニューワールドと戦っているといってもあの子は子供ね」
「まあ、あれでませちゃっても後が心配よ」
「ただ、子供にああいう使命を持たせるしかないってふがいないわね」
「仕方ないわよ。大人になって魔法が使えるのは狭義のクローンだもの」
「そういや、神奈と忍って双子だったよね?」
「二卵性よ?一卵性双生児なら性別だって」
「そうとも限らないの。一卵性双生児の男女が居るから」
神奈はそれを小耳に挟んでいた。
(一卵性双生児の男女、か。忍は魔法が使えたけど、ひょっとしたら……)
(でも世界に数例だし、その辺は専門機関に任せるのかしら)
(考えれば考えるほど頭が居たくなるわ。さすがに難しすぎるもの)
彼女はそう思いつつも、駅弁を食べていくのだった。
一方、他の二人も黙々と駅弁を食べる。
新幹線の車内だしこぼしてはまずいからだが、
小学生が黙々と駅弁を食べる構図は中々シュールではある。
その間にも新幹線は広島へと向かっていき、
ついに名古屋から京都までの半分を切っていたのであった。
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