第28話「それぞれの戦い方」
去っていったアルファール達を見た頌子は彼らを遠い目で見ていた。
「なんというか、やっぱり仰々しいわね」
「そうかな?」
神奈がそう疑問に思うと、頌子はこう続けた。
「まあ、ああいうところは嫌いじゃないけど」
「敵とはいえああいうのを見ていると感心するのよね」
神奈がそう返すと、ちひろが突っかかる。
「敵に感心している場合じゃない。私は攻撃の想像がしにくい」
「だから鉄を使って攻撃してるの?」
そんな神奈の疑問にちひろは頷く。
「まあね。鉄ならある程度武器を連想しやすい」
「あの槍の量からして火山灰も使ってたよね」
頌子が二人の会話にそう割り込んだ。
「あれだけの槍を形成するには砂鉄も必要になるから」
「ちひろは冷静だけど、だからこそ戦いには不向きなのかしら」
「傷つける、ことを冷静に考えてしまってもどうかと思うけどね」
頌子の発言に神奈は突っ込みを入れた。
「私はどちらかというと論理建てて行動を起こす」
「ちひろは冷静な時は冷静だけど、そうじゃない時は年相応だしね」
「まあ、まだ小学生であることには変わりないし」
鉄という物質は熱を通しやすい。
だから冷たくすればとことん冷たくなる。
例えばゼリーを冷やす鉄製の容器を冷蔵庫に入れたとしよう。
そうすると容器はキンキンに冷える。
こうすることでゼリーをより固めやすくしている、
というのは筆者が勝手にそう思っただけかもしれない。
しかしゼリーを作る時鉄製の容器を使った人なら、
容器の冷たさを体感したことがあると思われる。
逆に水は意外と温度が保たれやすい。
アツアツのお風呂が外気に触れていたとしても、
それなりに持つというのはご存知だろう。
鉄は熱したらすぐ打たなければならないが、
お風呂は多少放置したくらいでは冷めない。
無論長く放置していたら冷めてしまうものの、
それでも蓋をしたら長持ちしやすい。
また雪が降った翌日、晴れてもすぐに溶けないのはその影響だ。
例え積雪の翌日が小春日和だったとしても、
雪がそう簡単に溶けないのはいうまでもない。
本題から逸れているようだが、
ようはちひろは熱しやすく冷めやすいということである。
水のことは比較対象であってあくまで鉄の補足みたいな物だ。
つまるところ性格が鉄使いという側面に現れている、というわけだ。
「いずれにしてもこの状況がいいとはあまりいえないわね」
「どうしてなの?」
神奈の発言に頌子は疑問を持った。
「ちひろは周りとの連携が前提だから、あまり戦えないじゃないかと」
「それは自覚しているわ。鉄を持ち歩くことはできないし」
そんなちひろに神奈は返す。
「どこかのラノベに出てくる学園都市じゃあるまいしね」
「多分あの世界でも持ち歩ける鉄が足りてないと思うわ」
実際マジックガイストのコピーした街灯は、
腰に巻き付けられる鉄のそれを凌駕していた。
しかもそれでも足りず空中に漂う火山灰も形成の道具にしていた。
火山灰なんて広島に漂ってないだろう、
と思うかもしれないが広島でも微量にそれはある。
日本は火山国家なので目に見えない火山灰が空中によくあるのだ。
「困ったわね……かといって周りの物を使うわけにもいかないし」
「屋上のバットだろうと足りてない水準に……待ってよ」
ちひろはあることを思い出す。
「そういや、あそこには壊れたラジオが置いてあったわね」
「ラジオ?まさか、それで戦うつもり?」
そんな頌子に、ちひろはいう。
「あのラジオはそれなりに大きいから、大丈夫よ」
「でも、勝手に使っていいのかしら」
形成したラジオを元に戻すのは難しいわけではない。
魔法で形成した物体は魔力が切れると元に戻る。
無論形成したことによる影響は戻らないが、
どんな変化をさせようと問題は無い。
ただし、手元を離れたラジオは戻った際に地面へと叩きつけられてしまう。
神奈達は電線やビルよりもさらに上の、
それこそ肉眼では確認しにくい高度で戦っていた。
何故魔法少女の戦いが分かったかというと、
その光景が気象衛星に映りこんだためである。
2022年にもなると気象衛星のレベルは高く、
地上の動きを把握するまでは無くても雲の細部は分かるようになっていた。
そんな状況で神奈達が戦っていたので、
その時の記録がしっかりと残っていたのだ。
それはともかく、そんな高度からラジオが落ちたら大変だ。
かといって落としたラジオを回収するだけの魔力はない。
「マジカルガイストは倒した時どうなっていたっけ」
そんなちひろに、神奈は返す。
「確か木っ端みじんに爆発していたわよ。巻き添えの無い規模だし機密保持ね」
「ラジオはどうせ放棄されるんだし、何個もあるから大丈夫よ」
ちひろはそういうが、頌子は納得いかないようだ。
「どうかな……いずれにしてもやらないといけないことがあるわよ」
「校長先生に聞かないと、だっけ?」
そんなちひろは校長室へと向かう。
そこから帰ってくると、うれしそうな表情だった。
「OKがでたわよ」
「まあ、どうせ廃棄するんだしそれよりは一発何かしたいってわけね」
物騒な神奈に頌子は突っ込む。
「それは違う気がするわよ。というか物騒ね」
「そういうイメージよ」
そんな神奈に今度はちひろが突っ込んだ。
「どんなイメージよ、それ」
「イメージはイメージよ。それ以上でも以下でもないわ」
「文法的にそのいい方は間違っているしね」
ちひろの冷静な返しに神奈は補足する。
「まああれは監督の癖みたいな物だし」
「その監督の苗字からなんとか語っていわれるくらいには独特だったわね」
そういえば、という感じのちひろに頌子は頷く。
「ああいういい回しって何で難しいんだろう」
「日常会話っぽさを出したい、っていってたけどあれは日常でもいわないわ」
神奈はその分かりにくさに評価をくだしていた。
「あれで会話が成立するんだから、あの世界の人々は凄いと思うわ」
「ギャル語みたいな物じゃないかな、頌子」
「ギャル語はないわよ、ちひろ。あれは特殊すぎるから」
ギャル語は正直何がなんだか分からない言葉だ。
もはやあそこまで行くと言葉というより暗号だ。
まあ世の中には暗号としか思えない言葉も少なくない。
それだけでなくヘンテコな言葉もあったりする。
エロ漫画を手掛ける作者の名前が付けられた言語がそれである。
「ギャル語ね。あれはギャルの自由さが生きているのかしら」
神奈の推測があっているかどうかは別として、
ギャルといわれる人々は不良といわれる人々と通じるところがある。
いわゆるアウトローで、世の中へ反発する。
未成年ながら煙草を吸ったりすることだってあったりする。
まあ最近のギャルは煙草を吸うことは少なくなってきたし、
そもそもそういうのはいわゆるステレオタイプになってきている。
実際には真面目なギャルだっているし、
ファッション不良といわれる人間もいる。
犯罪行為やそれに準ずることをしない限り、
ファッションや信条は自由だと思う。
中にはカルト宗教へと嵌ってしまう人が居るが、
そういう問題は政府が解決する問題だ。
一個人でそういうのに立ち向かうというのは、
はっきりいって無謀だと断言しても問題ない。
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