支払いはお賽銭じゃない

お会計の金額を言われて初めて、鞄の中にあるだろう財布を探す。

ごそごそ、探す。見つからないのか、一回鞄から手を出して、ポケットを探るけれど、ない。

肩からかけていた鞄を外し、体の前の持って来て大きく開いて 探す。

「あった」

その仏頂面は誰に向けてる?

「おいくらですか?」

「5,381円です」

「じゃこれで」

この人、お金を放り投げて人に渡すんだ。表裏は関係ないんだ。お賽銭じゃないんだよ。

「1万円お預かりします」

「細かいの、いくら?」

「381円です」

「ちょっと待って」

がちゃがちゃな鞄の中がよく見える。

「小銭は別なんだよね」

知ったこっちゃない。それより後ろの並んでいる人に気がつけばどうだ?

「あった」

今度は笑顔なんだ。

「381円だよね。はい、これ。いくらある?」

20枚ほどの硬貨が、ざざっとキャッシュトレイに広げられた。

「380円ですね」

「えー。1円足りないんだ。ちゃんと数えてくれた?」

自分でもう一度数えますか?

「まけてよ、1円くらい」

「1万円からお預かりします」

返事はしないよ。

「お返しは4,619円です。ありがとうございます」

レジはさっさと閉めた。


こんな人が高級車に乗ってる事実。

安っぽい人と一緒にいる人も、そう見える。

丁寧な所作って、そんなに難しいことではない。気持ちの問題だよ。

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