肛門を閉める

便意をもよおした、

駅構内のトイレに入った。真っ白な便座は口を開けて待ってくれていた。よかった、すぐに会えたね。これだけは待たされるのは心身ともにツラくてね。


急な便意の場合、ほとんどは軟便。爽快な放出感はなく、大腸からしぼり出すけれど、切れの悪さが胃腸の弱さを物語っている。

さてと、電車の時間もあるし、そこそこ出ていくものは出て行った感があるので、お尻を綺麗にしないと。


残念なことにここはシャワートイレではない。新設される商業施設や駅構内のトイレにはシャワートイレがかなり普及してきたから有難い。

そうなんです。その有難さを痛感する瞬間が待っているんです・・・。


お尻を綺麗に拭き取りたい。ただそれだけなのに、何故、拭いても拭いても紙が茶色になるんだろう?ヌメっとした厚みのある感触が手に伝わる。絵具を伸ばすことと同じようなことをしている気がして、汚れている範囲がどんどん広がっていく。どれくらい紙を汚さなくなったかを確認するたび、その茶色の濃さが変わらないことに、終わりがないような気持ちになる。臭いも広がる。慌てなくてもいいのに慌てるものだから、指についたりする。もう4回も紙を巻き取ったのに。

便器内に溜まった紙を一度、流す。運良く、扉の外で誰も待っている気配がない。このままでは一向に安心できる変化が期待できない。意を決して5回目は巻き取った紙を便器内の水につける。指先に置いた水溶性の紙は早くもその形を崩していく。そっと押し当てる。ヒヤリとした感覚に肛門が縮む。まずは広い範囲の拭き取りはやめて、つまむように汚れを取る。見るのは忍びないから、すぐに6回目の巻き取りに入り、同じ作業を繰り返した。そしてすぐに7回目の巻き取りに入る。水につけること3回目。今度は、普通に肛門の上を滑らす。肛門肌の滑り感覚が変わった。これは水の滑りだ。拭き取った後の紙を見てみる。

汚れが激減。8回目の巻き取り。水に着けずに拭く。もう肛門に付いた水分を拭き取るだけの結果となった。


みんな、どうしているのだろう?

いや、シャワートイレがなかった時代にはこんな苦労はしていないはずだ。綺麗に拭き取れていたのだろうか・・・。


神経性胃炎を繰り返し、ピロリ菌を退治してからはストレスは次に弱い粘膜を探した。僕にとっては、それは肛門だった。切痔でもイボ痔でもなく、脱肛という症状となって表れた。排泄の度に肛門内の粘膜が「こんにちは」をする。それを指で押し戻す作業を続けた。ストレスから解放されてからは、痛みもなく、たまに「こんにちは」があるくらい。

というのも、排泄後はその「こんにちは」のままの状態で汚れを拭きとると、半永久的に紙をよごすのではないかと思った。

肛門は意識的にキュッと閉めてから、拭き取るべきではないか。きっと昔は脱肛でもなかったし、綺麗に拭き取れていたのだと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る