新幹線の指定席にて

朝6時。

新横浜から広島へ向けてひかり493号は定刻ぴったりに発車した。

この新幹線は新横浜が始発駅。迷った末、それでも指定席を取ることにした。窓口にお客は誰もいないから、まだ挑戦していない発券機はやめた。きっと慣れたら発券機の方が煩わしさはないのだろう。実際、北海道へ向かう飛行機では、あらかじめ予約番号を入手した後は発券機を利用している。

窓口の女性に行き先を告げ、往復で購入。人影もかなりまばら、なんとなく聞いてみる。

「493号は自由席でも座れますか?」

キーボードを操作しながら顔も見ないで

「乗車してみないとなんとも言えません」

大丈夫ですよとは言えないことくらいは私も承知している。指定席の料金もたかだか500円くらいなものだし、不安なら指定席を確保しろって言いたいことはよくわかる。でもこれは、そんな彼女にイラっとする私が間違ってる。聞いた私が悪いのだ。彼女の返事に何を求める?

しかし、6時ちょうどに動き出すこの素晴らしさ。まだ外は暗い。目指す駅に到着する時間に合わせて目覚しのためにアラームを設定した。


「すみません」

目を開けると男性が立っている。小田原から乗車してきた男性が隣に座ろうとしている。

「え?」

思わず声が出る。この車両には私を含めて7人しか座っていないんだよ。隣に座るの?真面目に?あり得ないだろう?

とりあえず、脚をたたんで男性を通す。私が通路側に席を取るのは脚を伸ばせるし、いちいち人に気を遣わなくても席を立てる。でも、こんな時間なのに隣に人がいたらまったく意味がない。ねえ、ガラガラなのに何故、ここへ?私は自分の乗車券に記載されている座席を確認する。14号車8番D席。まずは出入り口上に表示されている車両番号は14。間違いない。そして右側にある窓の上に席番号は白抜きで8、黒でDとわかりやすく表示されている。あー、間違いなくここは私が指定された席。

なんという残念感。いや、むしろ、こんな席割りをした人に腹がたつ。

私の前を通って座った男性は荷物を足元に置いてすぐに乗車券を確認した。そうだろう、こんなにガラガラなのに何故?って普通、思うよね。その疑問、生きていくためには大切だよね。

「すみません」

男性が席を離れて行く。あー、間違ったのか。よかったよかった。気がついたのね、よかったよかった。


2時間12分の高速で快適な閉塞感のある旅は、なるべく他人の気配を近くに感じない方が楽しい。

すっと眠りに落ちた頃、また

「すみません」

静岡から乗車してきた男性が隣に座ろうとしている。出張疲れのサラリーマン。目が腫れているのは昨夜の酒か、おそらくこの類のひとは席を間違えることはないなと感じる。せめて名古屋まで、できることなら京都までは一人にして欲しかった。まだまだいっぱい席は空いているじゃないか。これ、ほとんどの人が窓側を指定するのであれのば、通路側を指定しなければこんなことにはならないのかな?もしくはこやつ、14号車8番E席を指定したのか?

隣に座ったサラリーマンは慣れているのか、前の男性のように疑問を感じないのか乗車券を確認しない。逆にサンドイッチと缶コーヒーを取り出して食べ始めた。あー、臭いが漂ってくる。嫌だなー。

これで一緒に新大阪で下車したら怒るで、ほんま。


まあ久しぶりの新幹線。こんなこともあるのか。

朝日が昇った。今日は一日、いい日でありますように。

京都駅を発車した。次は新大阪。空いている席へ移動する。ガラガラの車内を見渡すとやはり嫌がらせのような席割りに腹がたつ。

え?あんたも降りるんかいな。なんやそれ。

こんな感じも旅の思い出か。

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