002 てんせい


1


「あのぉ、すみません…」

「お?なんだ、ぼうず?何か用か?」

よし、とりあえず言語は日本語で通じるみたいだ。

「ここは、何て街なんですか?」

「お?なんだ知らねえのか?見慣れない格好だな、旅の方かい?まぁいい、ここは、アルタリカ共和国の首都、王都エルデンだ!」

なんと。国の首都、しかも王都か、どうりで賑やかなわけだ。

「どうしたそんな難しい顔して。旅人の割には軽装備だな。なんかあったのか?」

「あぁ、すみません。いろいろあって、一文無しになってしまって…」

今の俺の装備品は、パーカーにTシャツ、ジャージの下と、かなりカジュアルな格好だ。

「ほぉ、若いのに苦労もんだな。持ってけ、出会いの記念だ。頑張れよ。」

八百屋のおやじは、りんごと水の入った瓶を投げてきた。

「あ、ありがとう。今度、何か買いに来ますね。」

「またのご来店を!」

おやじは笑顔で挨拶してくれた。

何ていい人なんだ。いいな異世界。いいなエルデン!、、、と、言っていたいのだが、金がないのはかなりの問題だ。とにかくこの街について、この世界について無知すぎる。情報を集めなければ。

「……春香、1人にしちまったな。」


2


りんごをかじりながら、市場のような通りを散策していた。売り物から確実にここは、俺のいた世界では無い。魔物や、なんかの肉なんかも置いてある。さっき通った店で小型のドラゴンの解体ショーをやってたのは、かなり衝撃的だった。

ここまで分かったことを整理する。まず言語は日本語、文字としてもしっかり機能している。次に街。一度街のはずれから、街のはずれまで歩いてみたが、さほど大きくは無い。国の6割ほどを、王様の城や、政府関係の建物がしめているため、動ける部分としては、ディズ○ーランドぐらいだろう。そして最後に一番大事な事、先ほどから騎士だろうか、王国を守る騎士様達から熱い視線を受けている。俺は相当怪しがられているという事だ。まずい、これはまずい。捕まったりしても、なんで話したらいいのか、とにかく服装をなんとかしなきゃいけないかな。

「君、少し話をすることはできないか?」

「え、えっとー、俺ですか?」

「あぁ、君だ。」

つんだ、これはつんだ。白銀の甲冑に、腰には剣がさしてある銀髪イケメン男子。年は変わらなそうだが、こいつは強そうだ。そんなやつに捕まってしまった。これはもうアウトですかね。

「あぁ、はい。」

煮るなり焼くなりすきにしてください。

「君はどこの国の騎士か、魔法使いだったのかい?」

え?

「い、いや、騎士や魔法使いなんてさっぱり。」

「えっ?いやっだって!」

こっちがえ?だよ

「ついて来てくれないか?」

「え、あ、はい」

言われるがまま、連れていかれたのは、どうやら王国騎士の隊舎のようだ。


3


「すまない、いきなり。僕の名前はアルザック・ユオン。ユオンと呼んでくれ。」

「はい、灰崎慎二です。呼び方はなんでも。」

「分かった、シンジ。単刀直入に言う。我が王国騎士団第二隊に入り、王国を守る騎士にならないか?」

は、はい?騎士だと?こんな俺が騎士だと?おっとこれが主人公補正というやつなのか?

「え、えっと、なんで俺みたいなのを騎士にしたいんですか?」

「君には魔力がある、しかし魔力はコントロールしなければ危険だ。今の君は、強い魔力が垂れ流し状態になっている。騎士になり、力をコントロールした方がいい。」

なるほど、単に危険ってことか。

「騎士になれば、コントロールできるんですか?」

「少なくとも今みたいに垂れ流し状態になることはない。騎士には魔剣が与えられる。魔剣は所持者の魔力を閉じ込めることができる。」

「なるほど、魔剣を持てば閉じ込めることはたやすいってことですね。」

「あぁ、そうゆうことだ。」

なるほど。街にいた時の騎士の視線といい、ある程度の人にも魔力を感じることが出来るのか。人ですら感じるというのだから魔物なんかがんがん寄ってくるだろう。それは勘弁して欲しいので、魔剣はかなり必要なアイテムだ、それをさくっとゲットできるのは、かなりおいしい。あとは……

「今、俺、一文無しなんですよ。騎士って給料とか出ますよね?あと、住むところとかも…」

ユオンはキョトンとした顔をしてそして

「くっ、ふふふふっ…」

いや、大事だよ、こういう事!しかも可愛らしく笑いやがって、絶対こいつ年下だろ。

「あぁ、もちろん給料も出るし、この隊舎は、隊員の自室があるし、食事もつく。どうだ?乗ってくれるか?」

「わかりました。騎士、やります」

「ほんとか!よかった!じゃあ次のステップだ。」

まだ何かあるのか。

「魔剣に魔力を閉じ込めるんだ。入隊の時にどの騎士もやるんだ。」

なるほど、魔剣って、結構早い段階だったのね。

「あ、大事な事を話しておこう。魔力には、7つの属性がある。そして魔剣は持ち主の閉じ込めた魔力によって色が変化する。魔力は、炎、水、土、風、雷、そして陰と陽、陰と陽は珍しい種類で、陰は炎と雷、陽は水と土、風の性質を持っている。ちなみに僕は炎で、この通り朱色の魔剣を持っている。」

ユオンはそう言って、オレンジ色の、美しい魔剣を抜いて見せてくれた。なるほど、魔剣で属性がわかるのか。

「どうすればいいんですか?」

ユオンは真っ白な剣を取り出した。

「この剣を握ればいい。そうすれば、魔力を閉じ込めることが出来る。」

「意外と簡単なんですね。」

「ああ。魔力が水だとすると、魔剣はビンだ。入れておくだけ。しかし自分は海だ。ビンには入りきらない。そしてビンが壊れると。水は海に帰る。そこは注意してくれ。」

なるほど、全部を入れるわけではないのか。入れるというより入れておく、というわけか。

「わかりました。やりましょう。」

「よし。剣をとれ。」

俺は、そっと剣をとった。すると、真っ白だった剣は、『黒く』染まっていった。

「ほぉ、陰か、珍しいな!」

「うちの隊では初めてですね、ユオンさん!」

仲間たちが口々に言う。陰か、珍しい属性なのか。そこのところは主人公補正というやつですかね。

「まて、これは黒じゃない、『漆黒』、闇の属性だ。」

「えっ?」

闇?闇なんてなかったじゃないか、おいおい、なんでみんなそんな驚いているんだ?

「特異属性、7種の他に分類できない属性がある。ひと大陸に1人レベルの話だがね。しかし、闇なんて、、、闇属性は、万物を飲み込む。なんであれ闇に飲まれ、闇に支配される。闇属性を持てるものなど、理性を失いすべてを壊す、闇落ちしたものにしか無い、、、でも、、、君は、コントロールしているのか?」

なんてこったい。理性もしっかりしてますよ。だから切り捨てたりしないでねお願いだから。

「え、えっと……」

「「「すっげえ(ごい)な!シンジ!」」」

「よし、今夜はシンジの入隊祝いっすね!ユオンさん!」

「そうだな!はでにやろう!」

「「うぉぉぉお!」」

た、たすかった。意外とみんな単純でよかった、、、まぁ、ここではともかく、あとあと面倒なことになりそうだな。


4


「やっぱりユオンさんって隊長だったんですね。」

みんなが俺の歓迎会をしてくれた。学校で友達すらいない俺にこんなイベントが来るとは思ってなかった。

「あははは、あっ!でも同い年なんだしユオンでいいよ!」

「呼びにくいですよ、」

「ははは、まぁ俺たちでもユオンさんって呼んでるしな。俺はマック・ファーロイ、マックって呼んでくれ!魔力属性は土だ!よろしくなシンジ!」

「あぁ、よろしく、マック。」

「俺は俺は、クラウスだ!属性は風。仲良くしてくれシンジ」

「あぁ、」

「最後になるがアラクだ。属性は陽。一応この隊の副隊長だ。よろしく頼む、シンジ。」

「よろしくお願いします。なんか、アラクさんの方が威厳がありますね、」

「あっ!シンジくん!僕それ気にしてるんですからね!」

「すいません、すいません」

「「「ははははははははは」」」

こんなに楽しいのは、いつぶりだろうか。

自室に戻り、着替えてベッドに飛び込む。今日はいろいろありすぎて、疲れた、、、今日は…もう……ね……よ……

『『『ドクンッ』』』

「ッツ…」

「お兄ちゃん?」

「え?」

「大丈夫?朝ごはん、できてるからね。」

「あ、、、あぁ、、、すぐいく、、、」

あぁ夢か、夢だったのか、随分と壮大な夢を見せてくれるじゃねえか神様。まぁ、こんなもんだろ。



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