ケルベロスの願い

東京水族園

転生転生編

001 転生


 1


 もう夏か、あっという間というかまだ夏というか、、、

 俺の名前は灰崎慎二はいざきしんじ、と自己紹介しておこう。昔から根暗な性格で、人との関わりが苦手だった、高校に入ったら、少しは変わってみようと思ったのだが、人間そんなに簡単に変われるわけがない。もう三ヶ月もたったのに友達すらいない。もっというと目つきが悪いせいか避けられている。まったく、ヤンキーでもなければ争いから全力で逃げるチキン野郎だというのに。こうしてついたあだ名がひかげだ。確かに部活にも入らず、自席で本を読んで1日を終える。誰とも喋らずひかげにいる。別にいじめられてるわけでもないし、困ることもな…一回教科書を忘れた時に隣の女の子に見せくれないかと頼んだのだが、その授業中、涙目で怯えっぱなしだった。とって食ったりしないよ。その時にもう二度忘れないようにしようと心に誓った。遅刻は厳禁だ。ますます悪く見える。

 学校で唯一俺を理解してくれるのはあかねちゃんこと茜谷結衣あかねやゆい先生だ。あかねちゃんといっても独り身三十路中盤のオバ…失礼、おねいさんだ。保健室の先生で、5月に他校生に絡まれて怪我をした時に話して、仲良くなった。まぁ仲がいいと言っても、週に2、3回、会った時に話すくらいだ。

 今日も別にいつもと変わらない。蝉がうるさい中、昨日買ったライトノベルの新刊を放課後まで黙々と読んでいた。読み終わる頃には、部活やらなんやらで人は俺しかいなかった。

「ふぅ、、、異世界か、、、楽しいもんかね。」

 使わない教科をロッカーにいれ、少年誌でも立ち読みして帰るかと考えていると。

「あ!灰崎君!もう帰るの?手が空いていたらでいいんだけど、中村先生に社会科準備室の整理頼まれたんだけど、手が届かないから手伝って欲しいんだけど、ダメ…かな?…」

「あぁ、別に構わない。ちゃっちゃと終わらせよう。」

「ありがとう!」

 この子は葉隠咲はがくれさき。俺のクラス、1年2組の委員長。頭が良く、容姿端麗、明るい性格で誰からも好かれる、学園のマドンナ的子だ。入学してから三ヶ月でかなりの男子に告白されているらしい。そんな子にダメ…かな…と言われたら断れる男子が存在するのだろうか?いないだろ。いるんだったらコメントにでも書いてくれ。


 2


「よいしょっと、、、おっとっと。」

 なんだこれ、かわいい。いや、俺は根暗だがかわいい子はかわいいと思うし、まず健全な男子高校生だ。それはさておき、俺にこんなイベントあってもいいのだろうか?罰当たりじゃないのか?葉隠は俺みたいなのといていいのか?ダメに決まってる。そんなことを考えてたら、なんだが気まずくなって、作業の手を早めた。

「すごい!もう終わっちゃった!ありがとう灰崎くん!」

「あぁ、、、次からは、、、」

「うん?」

「別のやつに手伝ってもらえ。」

 そう言って、逃げるように帰路についた。葉隠、どんな顔してただろうか。これでいいんだ。これが一番ベストな道なんだ。もう、慣れている。

「………あっ、ジャ○プ。」


 3


「お兄ちゃん、ご飯どのくらい?」

「いつもより多めでお願いします。」

「はいはーい。」

 こいつは妹の春香はるか。俺が中学1年の時に両親が事故で死んだ。我が家は、それなりに裕福だったので、今も2人で暮らしていけている。まぁ、バイトはしたりしているが。人との関わりが苦手になったのは、この時期からだろうか。そんなことより、妹だ。両親が死んでから、家事をしっかりこなすようになり、俺を養ってくれている。身内ながら完璧な妹である。

「いっただっきまーす!うん!おいしっ!……そんなことよりお兄ちゃん友達できた?」

「ぐっ…春香さんや、この質問毎日聞かれるんでじゃうか?」

「当たり前でしょう!我が家の最重要課題だよ?」

「最重要課題って、、、ふふ、聞いて驚くな!」

「おぉお!」

「できるどころか今日は、1人突き放してやったわ。」

「友達作る気あんの?お兄ちゃん、タダでさえ近づきにくいキャラなんだから、向こうから歩み寄ってくるなんて無いんだからね!自分から歩み寄っていかなきゃ。」

「歩み寄るねぇ、まぁ、明日から善処します。」

「お願いします。」

「今日はいろいろあったから、早めに寝ますわ。」

「洗い物、出しといてね。」

「了解しました。」

 歩み寄って、離されて、傷つくよりは、自分から突き放していた方がずっと楽だ。俺は弱い。

「ふぅ、、、」

 ベッドに飛び込んだ。明日学校で葉隠と顔合わせるのきついな。まぁ、合わせなければいいか。

 俺は、眠りについ

『『『『ドクッンッ』』』』

「……ッツ………」

 心臓が痛いほど強く鼓動した。

「いってぇ、目が冴えちまっ」

 心臓の痛みより、目の前に広がる、見たこともない街、見たこともない物、見たこともない世界に、目が覚めてしまった。

「これって、、、異世界?」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る