いないはずの白鳥
スミンズ
いないはずの白鳥
好きだった。
好きでした。
でも気持ちが伝えられなくて、
でも、気持ちに気づいてもらえなくて、
俺らは知らぬ間に出会わなくなった。
私は彼に逃げられた。
彼女がいなくなって、
あなたがいなくなって、
それから俺は後悔した。
それから私は後悔した。
しっかり気持ちを伝えるべきだった。
しっかりアプローチをかけるべきだった。
そんなこと今言っても遅い。
今思ってももう手遅れ。
だって彼女の居場所は、
だってあなたの居場所は、
わからないのだから。
知らないのだから。
でも、幸せな今でも、
でも、苦しい今でも、
彼女を思い出すと、
あなたを思い出すと、
胸が苦しくなる。
少し、元気が出る。
もう一度会いたい。そう思ってしまう。
あなたが元気でいるなら、それでいい。
何も不自由でない今だけど、
誰も彼もを失った今だけど、
彼女がいれば、もっと嬉しい。
あなたが生きていれば、それでいい。
私は彼女を見つけたい。
私はこの世界には必要がない。
彼女が、僕にとって必要だったことにいまさら気がついた。
あなたも、きっともう私には会いたくない。
だから探しにいきます。
だからさようなら。
君の好きな場所へ、行きます。
私の好きな場所で、死にます。
どうか、君よ、いてくれ。
どうか、あなたは、お元気で。
湖のほとりに君はいつもいた。
大好きな自然の中で、君の知らない間に死にます。
だから今日もいてくれ。
でも、やっぱりあなたにもう一回会いたかった。
その美しい湖に。
かっこよかった、あなたに。
そこにいる君が、
あなたの素直な性格が、
好きだ!
好きだった!
だから会いたい。
最後にもう一度会いたい。けど……
俺はバイクに乗る。
私はアヒルボートに乗る
あなたはきっと湖のほとりにいる。
じゃあ、ここら辺で、さようなら。
もしくはアヒルボートに乗っている。
私は重りをくくりつけた。
そこにアヒルボートが浮かんでいる。
さようなら。
白いアヒルボートには、白いワンピースの君が、
水しぶきが目の前に広がった。
湖に消えていった。
さようなら。
待て、まだ俺はここにいる。
私の好きな人は、もうこの世にはいない。
本当は好きだったことを、いえなかっただけだ。
だってあなたは結局私を知らなかったのだから。
だが今なら言える。
白鳥は湖で休憩をします。
君を愛していると。
そのように、私も休憩します。
「好きだーー!!!」
遅いよ、あなたは。
俺は湖を泳ぎ始めた。
私は重りをはずした。
俺は彼女を抱えた。
私は彼に抱えられた。
「もう一人じゃない」
重りをはずした私は、まるですべてを外したようだった。
「だから、もう一人で沈まないで」
私は頷いた。
「結局死ねないことは分かっているから」
わかっていたんだ、やっぱ怖く感じたこと。
「この湖、浅いから好きだって言ってたじゃない。君は」
だから好きなんだ。ここにいつも来ていたんだ。きっと、ここならあなたは助けてくれるって……。
好きだ。
好きよ。
いないはずの白鳥 スミンズ @sakou
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