第3話 パパを探して三時間


「ねぇママ〜パパは?」

 おれはキッチンにいるママの背中に向かっていう。


 最近パパが帰ってこない。パパは”領主”の仕事をしていて街にいない日も多いので、お家に帰ってこない日もいっぱいある。でも街にいるのに帰ってこないなんて、ない。


「お仕事が忙しいんですって」

 深呼吸をしてから振り返ったママの笑顔は引きつっている。


『葉、撤退!!』

 姉ちゃんがおれに向かって合図をするのでおれは”ふ〜ん”と言いながらキッチンを出て姉ちゃんのとこに行く。


「葉、今日のお昼ごはんどうする?」

「お弁当いる」

「少し待ってて」

「あっ姉ちゃんのも」

「はいはい」


 今日は学校がお休みの日。だから姉ちゃんとパパを探しに行くことにした。

 最近ママとパパは喧嘩をしているらしい。こんなことは初めてでどうしていいか分からない。だっていつもはパパがすぐに謝って次の日にはママもニコニコしているから。


「はい、お弁当。二人分だからね? 暗くなる前に帰ってくるのよ?」

「うん」

 お弁当を受け取って姉ちゃんが用意していたリュックに水筒を持って出発。

 まず、いつも一緒の”護衛”の人から隠れないといけない。


 今日の当番は優しいお姉さんだった。

「お荷物持ちましょうか?」

「大丈夫。ねえかくれんぼしよう?」

 姉ちゃんが言う。

「いいですよ。私が鬼やりますね?」

「うん」

「百だよ」

「はい。い〜ち、に〜い……」

 お姉さんが数えている間に、姉ちゃんと二人で走る。


 曲がり角で”確認”誰も見ていないので木に登ってお家に戻る。ママがキッチンに居るのを”確認”パパの倉庫の鍵を開けて地下道を走る。

 いつ間にかロブが付いてきていたけど、まあいいか。


 地下道は”やくしょ”につながってる。初めて来たけど、移動機がいっぱいだ。


「姉ちゃんどうしたの?」

「見て、人がいる」

 姉ちゃんは柱の影に隠れながら言うのでおれもマネして見る。


「ほんとだ〜、ゴエイの人?」

「うん。どうしようか?」

「うーん」

 おれは上を見るけど、ここは天井がとっても高いし木も生えてない。


「窓の下くっついていく?」

「うん!」

 パパに見せてもらった忍者のやつみたいに護衛の人のいる窓の下にくっついて奥へ進む。ロブもちゃんとおれ達の真似をしている。


 窓の外をぬけたので走ろうとしたらロブに引っ張られる。

「ロブ?」

「誰か来た!!」

 姉ちゃんが言うので近くの移動機の下に隠れる。


 すき間から見ているとブーツの音が近づいてくる。


「悪りぃ子はいねぇがぁ〜」

 なんか意味わからないけど怖い事いってる〜!


 すき間からブーツが見えて、目の前を通りすぎる。

 あっ止まった!

 おれは一生懸命息を止める。


 ブーツはまた歩き出した。よかった。

 あっブーツ消えた!!


「悪るい子みぃ〜けぇ」

 いきなりすき間をのぞき込んだ怖い顔が笑う。

「うぁああ〜!!」

 おれは姉ちゃんと反対の方に逃げ出す!


「うぁああ〜ん!」

 少し走って後ろを見ると姉ちゃんがつかまってる! こっち来なくてよかった!


「いだい!」

 なんか固いものに頭がぶつかった。走ってたからとっても痛い。


「う?」

 痛いのを我慢しながら前を見たら誰かの足だった。すごく上を見ると怖い顔がおれを見てる。


「うぁああ〜ん! パァパ〜!」

「えっと、いゃ……」

 逃げ出そうとしたら捕まってすごく高い所まで持ち上げられた。


「姉ちゃ〜助けてぇ〜〜!」

「大丈夫、大丈夫だから。葉くん怖くないぞ?」

「う?」

 困ったような声にふりかえったらウコンだった。

「ウコン……」

「大丈夫か? どうした?」

「パパ……パパは?」

「あぁパパに会いに来たのか……」

 ウコンは困った顔で姉ちゃんの方を見る。


 姉ちゃんは別のやつに捕まってて、泣きそうな顔で固まってた。

「ウコン姉ちゃんを助けて……」

「え? 大丈夫。あれも仲間だから大丈夫だぞ?」

「ダメぇ!! 助けて!」

「そうか?」

 ウコンは姉ちゃんを抱っこしてるやつから姉ちゃんを取り返しておれと反対の手に抱っこする。

「姉ちゃん!」

「よ〜ぅ〜ぅ」


「おい。鏑木、なんでこんなに怯えてるんだ?」

「いやぁ。なんとなく……」

 ウコンはため息をついた。


「お前立花様と一緒にいたんだろう?」

「ええ。俺だけ追い出されましたから、時間掛かるんじゃないですか?」


「……花梨ちゃん葉くん、パパはもうしばらく戻って来れないみたいだから……」

 ウコンは何か考えてるみたいだ。


「犬と遊んで待ってるか?」

 俺と姉ちゃんはロブを見る。

「いい。ウコンあそぼ〜」

「えっ?」

「いいなぁ。鬱金様俺も混ぜて下さい」

「はっ?」

 カブラギって人に言われたウコンはびっくりしてる。


「だって鬱金様何処か行くためにここに来たんでしょ?」

「えっ? まぁ……」

「何処行くんですか?」

「ウコンどこで遊ぶの?」

「一緒にいく!」

「いや、いゃあ〜……」

 ウコンは一緒に遊びたくないらしい。


「おチビちゃん達聞いてくれる? 鬱金様ってフラっといなくなって一人で美味しい思いしてるんですよ。意地悪でしょう」

「おいしいおもい?」

「そう。ずるいでしょう?」


 おれが頷こうとすると姉ちゃんに止められる。

「……だれ?」

「初めましてかな? 立花様の友達の鏑木です」

「パパの友達?」

「そう。二人が走ってるのがカメラに映ってたから迎えに来たんですよ?」

「カメラ……」

「はっ!」

 おれ達はカメラから隠れるのを忘れていた。


「護衛もこっちに向かってますからね?」

 全然隠れられてなかった。悔しくて泣きそうだ。


「ほら? 俺いい人でしょう? それなのに鬱金様は遊びに連れてってくれないんですよ?」

「いい人……?」

 姉ちゃんはまだうたがってるみたいだ。


「ウコンいい人?」

「えっ?」

 おれが言ったことがウコンは分からないみたいだ。


「この人はいい人?」

 姉ちゃんがもう一回聞く。

「いい人ですよ〜」

 鏑木が言う。


「二人にはいい人、かな?」

 ウコンがいう。

「う?」

「大丈夫」

「分かった! じゃあ一緒に遊ぶ!」

 姉ちゃんは納得したらしい。


「あっそういうことか……」

 ウコンは目をパチパチさせてる。


「姉ちゃん大丈夫?」

「大丈夫!」

「よし! 行こう! ウコン行く!!」

 おれはウコンから飛び降りて鏑木によじ登る。


「かぶらぎ……さん?」

「はい。よろしく葉くん」

「うん! 行こう!」

 鏑木が頷ずく。


「鬱金様、決定です」

「いや、危ないぞ?」

「大丈夫。棗さんの子ですから」

「そうだけどな……まぁ。いいか」


 こうしておれ達はウコンと一緒に遊びに行く。おいしいってなんだろう?楽しみだな。




  ▽▲▽




「森だ!森!」

「すごい!」

 おれは初めての森で嬉しくなって走ろうとするとウコンにつかまる。


「危ないから」

 そして護衛の人に預けられる。


「離れた所から見てて下さい」

「え〜!!」

 おれがジダバタしていると鏑木がやって来る。


「投げますか?」

「何?」

「ナイフ」

「ナイフ?」

「そう。こうやって投げるんですよ」

 かぶらぎは手をスバ! ってやってナイフがザクっ! って木に刺さる。


「スゲー!」

「蟲が来たら投げていいですからね〜」

「蟲?」

「そう。これから蟲とりするんですよ」

「おおお!」

 おれがジダバタしてる間に姉ちゃんは鏑木からナイフをもらって投げてる。

 でも全然飛ばない。


「おれも、おれもやる〜!!」



 おれ達がナイフを投げてると遠くでドドン! って音がする。



「何?」

「蟲?」

 おれと姉ちゃんは護衛と鏑木に抱っこされる。


 遠くでウコンが走る後ろからデッカい黒いのがやって来る。そいつが木に当たるからドドンっていってる。


 ウコンはなんかのすき間に走りこんで剣を構える。デッカいのは何かに引っかかってる。


「よし! 投げて!!」

 鏑木が言いながら降ろしてくれたのでおれも投げる。


 ナイフはカキンっていう。

「当たらないよ?」

「うん。当たってるけど、弾かれてるんですね」

「なんで?」

「硬いんでしょ?」

 鏑木は諦めたみたい。


 ウコンは剣をズバッ! ザク! ってやってる。すごい! 強い!

 そのうちデッカいのが動かなくなる。


「終わった?」

「行ってみます?」

「うん!!」


 近くで見るとデッカいのはウコンよりもデッカくてスゲーかった。


「これおいしいの?」

「えっ?」

「ウコンはおいしいんでしょ?」

「ああ。そういう意味じゃないんですよ。楽しいとかお金になるとかそういう意味で……」

「?」


「これは食べものじゃないんですよ」

「えー」

 かぶらぎは意地悪だ。


「いいもん。お弁当あるもん」

 おれはリュックから弁当を取り出す。


「みんなの分持ってきてくれたんですか?」

「ううん。おれの」

「鏑木様。お二人にはあれが一人前です」

「うそ……」

 かぶらぎが何か言ってるけど知らない。


「ロブ〜ご飯だよ〜」

 姉ちゃんが自分のお弁当とロブのお弁当を用意している。


 鏑木が意地悪だからおれ達だけお弁当を食べて帰った。




  ▽▲▽




「ほら、着きましたよ。パパがいますよ〜」

「う〜パパ〜」

 飛んでいた移動が降りるとドアの向こうにパパがいた!


「パパ! パパぁ!!」

「おかえり。怪我しなかったか?」

「うん。パパ〜」

 姉ちゃんと一緒にパパに飛びついてほっぺスリスリする。

 久しぶりのパパはやっぱりキレイだ。


「どうしてこっち来たんだ?」

「パパに会いに来たの!」

「パパ帰って来ないから! ママとケンカしたの?」

 姉ちゃんがいうとパパは困った顔をする。


「あ〜ごめんな……」

「ママにいうの!!」

 姉ちゃんに言われたパパは悲しそうな顔をする。


「立花様まだ喧嘩してるんですか?」

 ウコンがいう。

「うん。喧嘩っていうか、あれから話してない……」

「えっ?」

 ウコンも鏑木も驚いてる。


「パパが帰ってこないなら、おれパパとずっといる!」

「分かったから、一緒に帰ろう。二人もママに誤るの手伝ってくれるか?」

「うん!」

「ママ怒ってないんだよ!」

「そうか、ごめんな花梨」

 パパが姉ちゃんのほっぺにチューする。


「おれも!」

「葉もごめんな」

 おれにもチューしてくれる。

「へへへ」


「何すかこれ?」

「微笑ましい家族愛だろ?」

「どこが? イチャついてるだけでしょ……」

 鏑木とウコンがなんか言ってるけど意味がわからなかった。



 こうして、おれと姉ちゃんのパパお迎え作戦は成功だ! あとは帰ってママとパパが仲直りすればいいんだ。

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