第六話 お嬢様の秘密のクリスマス

 わたしのクラスでサンタクロースを信じている女子は、結構多い。実在しないなんて分かってることでしょ。

 そうよ。わたしが五歳の時、お父さんがわたしの用意した靴下にウサギのぬいぐるみを入れているのを見てたんだから。それをその翌朝に言ったら、バツの悪そうな顔をしてたわ。

 ミズガルズネットワークでもクリスマスの話題でもちきり。うんざり。噂では誰かが思想制御を行っているなんて事も聞いているけど、多分これ、逆よ。制御できてないんだわ。キリスト教がでっち上げたお祭りで賑わうなんて、ミズガルズの幹部が喜ぶとは思えない。

「守永さん、明日のクリスマスどうするの? 良かったら一緒に」

「馬鹿、やめときなって。どんなに誘っても断るボッチなんだから」

 聞こえてるわよ。まあ、説明しなくて助かるけど。



 そして今日はイブの日。日本ではイブが最も盛り上がって当日は大人しくなると聞いたわ。と言っても私も日本人なのだけど、こう見えてまだ十歳だから世間の事なんて分からないもの。

 昨日クラスの男子が「大人しくなるのは、賢者モードと聖女モードになるからだって。兄ちゃんが言ってた」とか聞こえてきたけど、わたしも意味がわかんない。

 我が家ではパーティは特に行うことはない。ケーキくらいは出るけれど。

 そんな感じで夜が来た。いつもの何も変らないはずだった。



「ほほほっ。メリークリスマス、ドリスちゃん」

「あなた、誰ですか。警察呼びますよ」

「な、なんと賢い娘じゃ」

 いきなりわたしの寝ている部屋に現れて、赤いサンタの格好したお爺さんがいたら、そりゃ警察沙汰よ。わたしは急いで枕元のランドセルを取った。

「おっとと、お待ちくだされ。プレゼントを持ってきたのですよ」

「あなた、泥棒か幼女目当ての強姦魔かどちらかでしょ」

「そんな怖い顔をすると、せっかくの可愛いネグリジェがだいなしですよ」

「黙れ。《ソーン》!」

「うぐぅ!」

 ランドセルから携帯ではなくゲートを取り出した。そして私の神醒術《棘のルーン ソーン》で首を縛り上げた。

 この手で変態を成敗しなければ気が済まなくなった。老人だからって容赦しない。

 そして、裸足でサンタの顔を蹴った。

 サンタコスをなじるように股間を踏みつけ、男の弱点を奪った。これでどんな屈強な男でも抵抗は出来ない。

「ほら、どう? これでもうわたしに抵抗できないわよね」

「う、うう。許してくだされ」

「謝るなら初めからやるな……ん? 足の裏に棒のような感触が」

 まさか、これって。

 最低! ふざけんじゃないわ、頭にきた。

「あなたね、こんな細チンでナニしようって言うの? こんなんじゃ、どんな女も仏頂面になるわね」

「ひ、酷い言いよう」

「うるさいこの変態」

 踏みつけている足を軸にして、顔を蹴り上げてやった。

 老人は勢い良く倒れ、哀れみを求めるような目でこちらを見ている。

 その軸足からジャンプし、顔へ飛び移った。ドロップキックのように両足を揃えて踏みつけた。

 老人は顔を歪ませながらも必死に上を見上げて懇願した。

「許してくだされ」

 わたしは、片足で踏まれた変態の顔が見えるように、ネグリジェの裾を膝まで上げた。

 変態老人の顔は赤く晴れあげているようで、鼻から血が滴っていた。

「あ、私の足に血がついたじゃない。あなたのでしょ。舐めてよ」

「は、はい」

「待って。歯は磨いてる? 口洗液こうせんえきでゆすいで清潔保ってんでしょうね」

「も、もちろんでございます。これでも私は紳士……」

「うっさい。こんな小学生四年生の部屋に忍び込んで、よくそんなことが言えるわね。ほら、だったら早く舐め取りなさい」

「はい。失礼します、ドリス様」

 しばらく舐めさせると、舌が上へ向かっていくので肘で脳天打ちを見舞った。

「ちょっと、誰がそこまで舐めていいと言ったの」

「申し訳ございません、ドリス様」

 ん、トイレに行きたくなってきた。そうだわ、ここまですれば二度とこんなことはしないでしょう。わたしってやっぱりほかの女子より賢いわ。

「わたしのおしっこを飲みなさい」

「な、なんですと⁉」

「おしっこを飲めと言っているの、直接口で」

「そ、そんな。なんとご無体な。おしっこを口で直接飲めなどと、そんな恐ろしいことを本気でやれとおっしゃるのですか」

「そうよ。こぼさず飲み干せば、罰はこれで終わりにしてあげる。もしもこぼしたら、わたしの神格《ヘル》でもっと酷いことをするわよ」

「ひ⁉ 分かりました」

 私はパンツを卸し、ネグリジェを上げた。

「目をつむりなさい。開けたら《ヘル》よ」

「滅相もございません」

 わたしの股間を、変態の口に近づけた。

「ほら、出るわよ。飲みなさい」

「はい。ゴクゴクゴクゴクゴクゴク」

 この変態、殊勝なことに本当に全部のおしっこを飲み干した。

「どうしたの。この後、やることがあるでしょ」

「はい。綺麗にさせていただきます」

 舌がおしっこの穴の辺りを這いずり回る。

「下手くそ!」

 私は膝打ちをして変態を押し飛ばすと、パンツを履いた。

 ゲートに手を当てて言ってのけた。

「とっとと、帰りなさい。罰を受けたんだから通報だけは勘弁してやるわ。今回だけよ、変態サンタ」

「ひぃ、分かりました。二度しません。ですから《ヘル》だけはお許しを」



 変態サンタが窓から逃げた翌朝、クリスマスがやってきた。

 テレビをつけると、ホテルの状況は落ち着いたらしい。

「ねぇ、お父さん。ちょっとやつれてない?」

「き、気のせいだよドリス。なあ母さん」

「なんで母さんに同意を求めるの?」

 と母さんを見ると、鼻歌を歌いながらウフフと笑っていた。

 やっぱり、わたしには世間のことはまだ分からない。

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徳高き紳士 瑠輝愛 @rikia_1974

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