第伍話 アナタも治らないの?

 朝。

 目が覚めれば、一点の曇もない、真っ白な天井が見える。

 食事は、いつも、点滴。

「クリエさん、たまには口から食べるようにしましょうね」

「いい。……治らないもの」

 看護婦さんは、クリエの、心配しているの? お仕事なの?

 


 新しい、包帯を巻くから、古い包帯は、身体から剥がした。

「アナタは、誰」

 クリエの知らない人、どうして、クリエの包帯持ってるの?

「ほほほ。臨時の看護師ですよ」

「看護士? 男の看護婦さん」

「ほほぉ。古い言葉を知っていますな。いや、本来はそれが正しいのですよ」

 お爺さん、でも先生じゃない、いつもの看護婦さんは、どこ。

 クリエの身体、まだ裸のまま。

「看護士さん、新しい包帯。治らないけれど、巻かなきゃならないの」

「巻いてあげますぞ」

「うん」

 クリエは、この看護士さんにも、巻いてもらった。

 おっぱいを触られた、なんか温かい、どうして?

 首を傾げると、看護士さん、教えてくれた。

「徳を積んでおる最中だから、温かいのですよ。どうですかな? さきっぽも温かいでしょう」

「うん」

 いつもと違う結び方、おっぱいも、おしりも、包帯で隠れてない。

 腕、後ろに縛られた。

「これはこれは。良いものですなー。いやぁ、実に素晴らしい」

 両脚を広げられた、ちょっと、恥ずかしい。

 クリエが顔を赤くして、それを言うと、看護士さんが、暗い顔をした。

「実は、私も病気をしていてね。こうしないと頭が痛くなるのですよ」

「アナタも、治らないの?」

「ええ。不治の病でしてね。こうすることで、すこしは収まるのですよ」

 そういうと、看護士さんは、私の目を包帯で、巻いた。

 何も見えない、脚が閉じない、腕が動かせない。

「……全部、見られちゃうの、嫌」

「もう少し、そのまま。……おお、久しぶりに調子が良い。では」

「看護士さん? クリエのあそこに何か当たってるよ」

「すぐに済みますよ」

 と聞こえたその時……。

「クリエさぁん、検診ですよー」

 この声、……もしかして、研修看護婦のヒルデさん?

「クリエさぁん? ああああああ⁉ なな、な、な、なんてこと」

「ちっ、肉め! 《烈風》で拘束しておいたはずなのに」

「あなたですね! 皆さんを縛ったのは。この変態! クリエちゃんから離れなさい」

「ひぃぃ。肉が襲ってくる。助けてー」

 看護士さんの声が、遠くなっていく。

 目の包帯がはずれた。

 ヒルデさんが、目に涙を浮かべて、クリエを抱きしめた。

 クリエは、分からなかった。

「どうして……泣いてるの」

「無事でよかった、本当に良かった」

「さっきの看護士さんより、温かい」

 クリエは、聞こえないように、呟いた。

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