第四話 お買い物……でも寒い

 この季節、いくら重ね着しても寒い。デパートで可愛いマフラーと手袋を見つけた。まだ残っていればいいけれど。

 期待と不安を込めて、エレベーターの△ボタンを押すとすぐに開いた。良いことありそうと入ると、後ろから声が聞こえてきた。

「待ってくだされ」

 お爺さんだ。◁▷ボタンを押してあげた。

 お爺さんは息は切らしてないけれど、顔をハンカチーフで拭っていた。

「ありがとう。お若いのに優しいねぇ」

 わたしは8Fを押した。

「あの……。何階ですか」

「屋上までお願い出来ますかな」

 背を伸ばしてRFのボタンを押すと、にちぁ、と音が聞こえた。振り向くとお爺さんが口を開けて微笑んでいた。

 わたしは震えていた。

 やっぱりこのエレベーターも寒い。早く新しいマフラー欲しい。

 階層ランプをじっと眺める。

「寒いのですか」

 お爺さんの問いかけに、後ろを向いたままうんと答えた。

「温かいものがありますよ。握ってみますかな」

「握る? 何を」

「おっと。振り向くと降り損ねますよ」

「あ……」

 8Fの扉がしまってしまった。仕方ない。屋上まで行こう。

「ほれ。これですよ」

「あ、温かい」

「ひっ。これはなかなか冷たい」

「?」

「いえいえ。気にしないで」

 温かいものがだんだん固く大きくなってきた。なんだろうこれ。

 お爺さんが名前を聞いてきた。

「コニー……」

 口を開いた時、知らない人に名前を教えては駄目だとアリスお嬢様に言われたのを思い出して慌てて黙った。

「コニーちゃんか。ああ、もう一度8Fを押さないと付きませんぞ」

「あ」

 私は8Fボタンに手を伸ばした。

 お爺さんは、おっ・うほっ・はぁはぁ・と何か言っていたけれど、耳も寒いからよくわからない。

 なんか身体を触られているような気がするけれど、厚着のせいでよくわからないし寒いからちょっと暖かいかも。

 握っているものがビクビクしだした。

「ありがとう。徳を積めましたよ」

 屋上についた。

 お爺さんは深々とお辞儀をして降りていった。

 エレベーターがしまった時、さっきまで握っていた左手が暖かくなっていたのに気がついて覗いてみた。

「なんだろう、この白いの」

 ネバネバしていたので、ティッシュで拭き取った。

 やっと8Fだ。

 お店まで行ってウィンドをみた。

「よかった……まだあった」

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