第弐話 魔法使いはいろいろ大変!

 私の名前はモカ・マッテゾン。魔法少女だけど、本当は男の子なんだ。

 え、魔法少女が男っておかしい? 違うよ。変身すると魔法少女になるんだよ。

 お、おち……んは付いたままだけど、とにかく魔法少女なの!

 よしっ、今日も私の神醒術で困った人を助けちゃうぞ。

 あ、あんなところにお爺さんが倒れている。

「お爺さん、大丈夫ですか」

 肩を貸して起こすと、お爺さんは腰に手を回して起き上がった。

「ほほほ、これはこれは。ご親切に……おや、少々身体がゴツゴツしてますな。ひょっとして、あなたは男の娘ですかな」

「い、今は、魔法少女なんです」

「むぅ……」

 お爺さんはマジマジと私を見つめた。片目を瞑り、上から下まで見ては顎を触って考え込んでいる。

 どうしたんだろ。

 お爺さんの返事を待っていると、膝を叩いて空を見上げた。鳥でもいるのかな。

「カッカッカッ! これも良き徳を積む経験だと思いましょう」

「と……く? 何か良いことでもあったの?」

「貴女に会えたことが、良いことですよ」

「なんだか嬉しいな♪ そうだ。他に困ったことがあれば、私に手伝わせて」

「なんと、これはこれは。では、あちらの路地に入って戴けますかな」

「いいよ」

 私は路地の細道にお爺さんと一緒に入った。

「では、座ってくだされ」

「お爺さんも一緒に座りましょう」

「いえいえ。見てほしいものがありましてな」

「見てほしいもの……。これなんですか」

「ほほほ。何に見えますかな」

「バナナ? 黒いからチョコバナナ? どうしてズボンから出て来るの?」

「よしよし。術にかかったようじゃ」

「何か言った?」

「なんでもない。では、親切にしてくれたお礼ですぞ。どうぞお舐めなさい。歯を立てるとすぐに崩れてボロボロになってしまうが、美味しいですぞ」

「え。あ、ありがとう」

 口に含むと、よくわからないけれど美味しい。こんな美味しいものを舐めたことがない。

「しゅ、しゅごい。どんどん……んく、硬くな……あむ……てくる」

「良いですぞ。そのまま舐め続ければ、おいしいシロップが出る仕組みなんですよ」

「お爺さん、ネタバレは……あむ……だめだよ」

「すまんすまん」

 ジュポジュポと夢中に舐めて暫く経つと、蜜のようなシロップが出てきた。

 思わず喉を鳴らして飲んじゃった。

「美味しかったです。あれ、チョコバナナがなくなっちゃった」

「美味しそうに舐めてくれて、私もうれしいですよ。ではこれで」

 お爺さんにお礼までしてくれた。

 だから魔法使いはやめられない。

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