第6話
私たちは、カフェの店内に入った。店内は、お客さんでいっぱいで、とてもにぎやかだった。
私は、店内を見回してみたが、お姉ちゃんの姿は確認できなかった。どこに、いるんだろう?
「いらっしゃいませ。四名様でしょうか?」
店員さんが、深々と頭を下げて迎えてくれた。
「はい」
「大変申し訳ありませんが、現在、店内が大変混みあっていますので、席の指定はできませんのでご了承ください」
と、若い女性店員さん(若いとはいっても、私たちよりは当然年上だと思うけど)が申し訳なさそうに、またも深々と頭を下げた。ここまで深々と頭を下げられると、私なんかにそこまで丁寧にしていただいて、なんだかこちらが申し訳なく思ってしまう。まあ、これも、お姉ちゃんの指導の賜物なんだろう。
「みんな、別に、どこの席でもいいよね?」
と、私は振り返って、みんなに聞いた。
「俺は、そんなの、どこでもいいよ」
と、結城君が言った。
「まあ、俺も、どこでもいいさ」
と、五十嵐君も言った。
「陽菜は、あそこのテラス席がよかったなぁ」
と、陽菜が外のテラス席の方を見ながら言った。
私も、テラス席の方に目をやった。テラス席には、誰も座っていないみたいだけど――
「大変申し訳ございません。テラス席の方は、もうすぐ雨が降りだしそうなので、現在は閉めさせていただいております」
店員さんは、また頭を深々と下げた。
「まだ、降ってないのになぁ」
と、陽菜は残念そうに、窓の外を見上げた。外は、朝よりもさらに暗くなってきていた。やっぱり、傘を持ってくればよかったかしら。誰も、持ってきてないだろうな。五十嵐君のリュックの中には、傘が入っているのかしら? まあ、四本は入ってないだろうな。
「お客様、大変申し訳ございません。風も強くなってきましたので、またの機会にご利用ください。それでは、二階の方へ」
「陽菜、テラス席は、また今度、天気のいい日にしようよ」
「うん――しょうがないね」
それでも陽菜は、名残惜しそうだ。
「それでは、こちらへどうぞ」
私たちは、店員さんに連れられて、二階へ上がった。やはり二階も、お客さんでいっぱいだった。
「それでは、こちらの席にどうぞ」
私たちは、二階の一番奥の席に通された。
さて、問題は誰がどこの席に座るかだけれど――
ここで私は、重要なことに気がついた。陽菜と五十嵐君を、どうやって隣同士に座らせればいいんだろう?
結城君と、そこまでは話していなかった。私は、結城君の方をチラッと見た。結城君も、しまったという顔をしている。どうしよう? 私が、座る場所を指定するのは、おかしいしだろうか?
私は、席に案内されてからの数秒間で、頭をフル回転させていた。そんなときだった。五十嵐君が、無言で一番先に座ったのだ。すると、
「それじゃあ、陽菜は、ここに座ろっと」
と、陽菜は言って、五十嵐君の隣の席にさっと座った。
「なんだよ、如月。お前、一之瀬の隣に座ればいいだろう?」
と、五十嵐君が言った。
「えぇー。いいじゃん別に。陽菜が隣じゃ、不満なの?」
「いや、別に不満とか、そういうことじゃなくて――」
今がチャンス! とばかりに、私は陽菜の正面の席に座ろうとしたのだけど、一足早く結城君が座ってしまったので、私は仕方がなく(なんて言ったら、五十嵐君に失礼か)五十嵐君の正面の席に座った。
「まあまあ、大和。せっかく男女二人ずついるんだから、たまにはいいだろう」
と、結城君が言った。
「大翔、お前がそんなことを言うなんて、珍しいな」
「そ、そうか? そんなこと、ないだろう」
「それに、しゃべり方が不自然というか――なんか変だぞ?」
実際、結城君のしゃべり方は、棒読みというかなんというか――なにが、おもしろそうだから協力するよ。先が思いやられるわ……。
そこへ、
「あの、よろしいでしょうか?」
と、店員さんが割って入った。
「はい」
助かったぁ。このまま五十嵐君につっこまれると、変な雰囲気になりそうだ。そうなったら、陽菜にも悪い。
「こちら、当店のメニューでございます。お決まりになられましたら、こちらのボタンを押してください」
と、店員さんが、ボタンを指し示した。
「はい、分かりました」
と、私はうなずいた。
「それでは、失礼いたします」
と、店員さんは頭を下げて、戻っていった。店員さんが去り際に、私の顔を見つめていたような気がしたのだけど、気のせいだろうか? 顔に何か付いてるとか、ないよね?
「ねえ、みんな、なんにする?」
私は、テーブルの上にメニュー表を広げた。
「サービス券が使えるのは、ケーキセットだけだからね」
と、私は言って、カバンから財布を取り出し、財布の中からサービス券を取り出した。
「それじゃあ、みんなケーキセットを注文するとして、ケーキと飲み物は何にする?」
と、結城君が言った。
「陽菜は、どうする?」
と、私は聞いた。
「陽菜? 陽菜はねぇ――」
と、陽菜は言って、五十嵐君の方をチラッと見た。これはもしかして、五十嵐君と同じものがいいというパターンなのか? はぁ、本当に、めんどくさいわね。
私は、結城君に目で合図を送った。結城君、あなたが五十嵐君に聞いてよ――
結城君は、私の視線に気がついたみたいだけど、視線の意味には気がついていないみたいだった。
「なんだよ、誰も決まらないのか? それじゃあ俺は――アイスコーヒーと、チョコレートケーキでいいや」
と、五十嵐君が言った。ここでも、五十嵐君が自ら決めてくれた。偶然とはいえ、助かった。私は、ホッと一息ついた。
「それじゃあ、陽菜も、それにしよっかなぁ」
「なんだよ、如月。真似すんなよ。お前が、好きなものを頼めよ」
「偶然なんだけれど、陽菜もね、アイスコーヒーとチョコレートケーキが大好きなんだよ。五十嵐君ひょっとして、知らなかったの?」
と、陽菜は、私も聞いたことがないようなことを言っている。もちろん、私が東京に住んでいる間に、好きになったという可能性は、ゼロではないけれど――
「そんなこと、俺が知ってるわけがないだろう。こういうところに、初めて一緒に来たんだからな」
「そうだね。一緒に来るのって、初めてだもんね」
陽菜は、一緒に来たということが、嬉しくて仕方がないみたいだ。陽菜は、私と結城君の存在なんて、忘れているんじゃないかしら? 間違いなく、この場を一番楽しんでいるのは、陽菜だろうな。本当に、私たちの苦労も知らないで、楽しそうでうらやましいわ……。
でも、陽菜に頼まれたわけじゃなくて、私と結城君が勝手に苦労をしているだけなんだけれどね。
「学校でも、そんなことを話しているのを聞いたことなんて、一度もないけどな」
「あれっ? 五十嵐君、学校で陽菜たちの会話を、こっそりと聞いてるの?」
と、陽菜が鋭くつっこんだ。
「バッ、バカ言え――そんなわけ、ねえだろ。如月の声が大きすぎて、聞きたくなくても、こっちの方まで聞こえてくるんだよ!」
五十嵐君は、慌てて否定をした。
あれっ? これって、もしかして――五十嵐君も、陽菜のことが? 私は、結城君と顔を見合わせた。結城君も、私と同じことを考えているみたいだ――たぶん。
「五十嵐君、休憩時間は、いつも教室にいないじゃない」
「如月の大声はな、学食や体育館にまで聞こえてくるんだよ」
「そんなわけ、ないでしょ」
陽菜は、とても楽しそうだ。
「いや、一度、屋上まで聞こえてきたぞ。窓が開いてたときに」
「えっ? 嘘でしょ?」
と、陽菜は笑っている。
「いや、これは本当だったような……」
と、結城君が小声で言った。幸いにも、陽菜には聞こえなかったみたいだ。
「まあ、そんなことは、どうでもいいんだよ――そんなことよりも、大翔と一之瀬は、何にするんだよ?」
と、五十嵐君は、私たちに聞いてきた。そうだった。私たちも、決めないと。
「それじゃあ、俺は――アイスミルクティーとチーズケーキにするよ」
と、結城君がメニューを見ながら言った。
「後は、一之瀬さんだね」
と、結城君が、私にメニュー表を渡してくれた。
「あ、ありがとう」
どれにしようかな? 飲み物は、オレンジジュースで、ケーキは――
「結衣、早く決めてよ」
と、陽菜が、せかしてくる。
「うーん――ちょっと待ってね」
イチゴのショートケーキにしようかな――
「分かった!」
突然、陽菜が叫んだ。何が、分かったんだろう?
「それじゃあ、結衣も、アイスミルクティーと、チーズケーキでいいじゃん」
と、陽菜が勝手に言い出した。
「えっ?」
私は、陽菜の方を見た。陽菜の目は、
『結衣、自分から結城君と同じものがいいって言うのが恥ずかしいんでしょう? 分かったわ、陽菜が結衣の代わりに言ってあげるから、安心して陽菜に任せてちょうだい』
と、言っている――ような、気がした。いや、絶対に言っているだろう。
「いや、別に、同じものじゃなくても――」
と、結城君が言いかけたのを、陽菜がさえぎって、
「結城君、女心が分かってないわね」
と、ため息をついた。
「えっ?」
結城君は、きょとんとしている。
「結城君も、鈍いわね。結衣はね、結城君のことがね――」
「あーっ! そうだった! 私も、アイスミルクティーと、チーズケーキが食べたかったんだった!」
私は、陽菜の言葉をさえぎる為に、思わず大きな声を出してしまった。忘れてた。陽菜は、私が結城君のことが好きだって、勘違いしていたんだった。
「びっくりしたぁ。結衣、そんなに大きな声を出さないでよ。他のお客さんが、見てるじゃない。恥ずかしいなぁ」
と、陽菜は笑った。陽菜にだけは、言われたくないわよ――
「一之瀬、そんなに叫びたくなるくらい、アイスミルクティーと、チーズケーキが大好きなのか? そうか、お前も変わったやつだな」
と、五十嵐君が言った。
「そ、そうかな? 私、変わってる?」
全部、陽菜のせいよ……。
「一之瀬さん、本当に、俺と同じものでいいの? 好きなもので、いいんだよ」
「え、ええ。いいわよ」
私も、別に、嫌いじゃないし。それに、もう選ぶ気力もないわ……。
「それじゃあ、ボタンを押すよ」
と、結城君がボタンを押そうと、手を伸ばしたとき――
「ちょっと待って!」
と、陽菜が叫んだ。
「何?」
結城君は驚いて、手を止めた。今度は、なによ。また何か、変なことを言い出すんじゃないかと、私は内心ハラハラしている。
「結城君、そのボタン――」
ボタン? ボタンが、どうかしたの? これを押したら、爆発するとでも言うのかしら?
「陽菜に、押させてぇ」
「――あ、うん。いいよ」
なんだ、そんなことか……。
「陽菜、こういうボタンを押すの、大好きなんだ」
と、陽菜は、笑顔でボタンを押した。
「たまに、こういうの押したがるやつって、いるよな。エレベーターとか、バスとか」
と、五十嵐君が言った。
「陽菜、昔から好きなの」
そういえば、確かに陽菜は、昔からボタンを押すのが好きだったような気がする。すっかり忘れていた。
あっ、そうか! さっき、バスを降りる前に悲しそうな顔をしていたのは、私が先にボタンを押してしまったからか。きっと陽菜は、あのボタンも押したかったんだろう。帰りは陽菜に、思う存分、押させてあげよう。私は、強く心に誓ったのだ――って、いったい何の話だ?
「お待たせいたしました」
と、さっきの店員さんが、やってきた。
「ご注文は、お決まりでしょうか?」
「はい。ケーキセットを四つお願いします」
と、私は注文をした。
「ケーキとお飲み物は、いかがいたしましょうか?」
「チョコレートケーキとアイスコーヒーのセットを二つと、チーズケーキとアイスミルクティーのセットを二つで」
「はい。サービス券の方は、お持ちでしょうか?」
「はい」
私は、サービス券を、店員さんに渡した。
「はい。それでは、サービス券をお預かりいたします。それでは、もう少々お待ち下さい」
店員さんは、戻っていった
数分後――
「お待たせいたしました」
私たちの注文した、ケーキと飲み物が運ばれてきた。テーブルの上に、ケーキと飲み物が置かれると、
「失礼ですが、お客様、一之瀬さんの妹さんでいらっしゃるんですね」
と、店員さんに、話しかけられた。
「あ、はい。そうです」
「すみません。先ほど、お客様が、一之瀬と呼ばれているのが聞こえてしまったもので、一之瀬さんにお聞きしたら、妹さんだと伺いました」
「あっ、そうですか。いつも姉が、お世話になってます」
と、私は頭を下げた。
「お世話だなんて、とんでもないです。私の方が、一之瀬さんには、お世話になりっぱなしです」
と、店員さんは、恐縮して言った。
「お姉ちゃんって、厳しくないですか?」
と、私は、なんとなく興味があったので聞いてみた。
「そうですね。ここだけの話ですが――めちゃくちゃ、厳しいですね」
と、店員さんは言った。やっぱり、そうなんだ。お姉ちゃん、ああ見えて、けっこう厳しいからなぁ――私には優しいけれど。
「ですが――」
と、店員さんが、続けて言いかけたとき、
「誰が、鬼のように厳しいって?」
「あっ、一之瀬さん」
お姉ちゃんが、笑顔でやってきた。
「鬼だなんて、言ってませんよ」
と、店員さんは、あわてて否定した。まあ、確かに、鬼とは言ってなかったけど。ニュアンス的には、同じようなことか。
「その後に、ですが、意外と優しい方ですって、言おうとしたんですよ」
と、店員さんは言った。
「意外とは、なによ。意外とは。
と、お姉ちゃんは、ちょっと怒ったように言った。
「す、すみません、一之瀬さん。決して、そういうつもりでは――」
と、広瀬さんは、うろたえている。
「それじゃあ、どういうつもりなの?」
「えっと、ですね――」
広瀬さん。もう、それくらいにしておかないと、ますます墓穴を掘ることになるわよ。
「お姉ちゃん、もう、そのくらいでいいじゃない。広瀬さんが、かわいそうだよ――広瀬さん。お姉ちゃん、本当に怒ってるわけじゃないですから」
私には、お姉ちゃんが本当に怒っているわけではないと、分かっていたけれど、広瀬さんが、かわいそうで、思わず口を挟んでしまった。
「そうね――結衣が、そこまで言うなら。広瀬さん、もういいわ。ここはいいから、あっちをお願いね」
「は、はい。分かりました。それでは、失礼いたします」
と、広瀬さんは、今まで以上に深々と頭を下げて、行ってしまった。
「お姉ちゃん、あんまり意地悪したら、かわいそうじゃない。後で、広瀬さんに謝ってね」
「はいはい。広瀬さんって、とっても素直でかわいいから、ついつい、からかいたくなっちゃうのよね。ちなみに、広瀬さんは、みんなの高校の3年先輩よ」
ということは、20歳か。
「みなさん、お騒がせしたわね。結衣の姉の、一之瀬結菜です。結衣が、いつも、お世話になっています」
と、お姉ちゃんは頭を下げた。
「いえ、お世話だなんて。なんにも、してないですよ」
と、陽菜が言った。
「陽菜ちゃん、お久しぶりね。また会えて、嬉しいわ」
「はい。ご無沙汰してます」
と、陽菜は頭を下げた。
「また、家にも、遊びにきてね」
「はい。行かせてもらいます」
「それはそうと、結衣。男の子が来るなんて、お姉ちゃん、聞いてなかったわよ。しかも、二人も連れて来るなんて、結衣もなかなかやるわね」
別に、私が、好きで連れてきたわけではないけれど。
「うん。言おうかなとは思ったんだけど、もしも言ったら、お姉ちゃん、びっくりするかなって思ったから――」
「突然の方が、びっくりするわよ」
それもそうか。
「だけど結衣、ボーイフレンドなんて、いないって言ってなかったっけ?」
「まあ、いろいろと、成り行きでね……」
「成り行き?」
「ま、まあ、そこは、深く気にしないでいいから。同じクラスの、五十嵐大和君と、結城大翔君。二人は、私の隣の席と、後ろの席なの」
私は、五十嵐君と結城君を、お姉ちゃんに紹介した。
「どっちが、結衣の本命?」
と、お姉ちゃんは、私の耳元でささやいた。
「ちょっ、ちょっと、お姉ちゃん! どっちも、違うわよ。そんなんじゃ、ないからね!」
私は、必死に否定した。
「必死になるところが、怪しいわね」
怪しくない!
「初めまして、お姉さん。一之瀬さんの後ろの席の、結城大翔です。今日は一之瀬さんと如月さんに、是非にと誘われたもので」
と、結城君は立ち上がって頭を下げた。
繰り返すけど、私が誘ったわけではない。陽菜が、自分の為に強引に誘ったのだ。しかし、ここでそんなことを言っても、雰囲気が悪くなるだけだ。
「まあ、ご丁寧にどうも」
と、お姉ちゃんも頭を下げた。
「どうも、五十嵐大和です。俺は、一之瀬の隣の席です。お姉さん、お綺麗ですね。めっちゃ、かわいいです。俺のタイプです」
と、五十嵐君は言った。突然、何を言い出すんだ、この男は? 私は、ジロッと、五十嵐君を睨んだ。そういえば、五十嵐君は、お姉ちゃんに興味があるとか言っていたっけ。
「あら? そう? 五十嵐君、よく分かってるわね」
と、お姉ちゃんも嬉しそうだ。
「五十嵐君にだけ、サービスしちゃおうかしら」
と、お姉ちゃんが言った。
「ちょっ、ちょっと、お姉ちゃん。だめだよ、そんなこと――」
私は、再び、お姉ちゃんと五十嵐君が、付き合っているところを想像してしまった。
「冗談よ」
「五十嵐君も、変なことを言わないでよ」
「別に、変なことは言ってないだろう? 俺は、思ったままのことを言っただけだって――なあ、如月? お前も、そう思うだろう?」
と、五十嵐君は、陽菜に同意を求めた。よりによって、陽菜に、そんなことを聞くなんて……。
「えっ? あっ――うん、そうだね……。結衣のお姉ちゃんは、素敵だもんね。陽菜なんかと違って、背も高くてスタイルもいいからね……」
と、陽菜は、寂しそうに言った。
「そうだろう?」
そうだろう? じゃ、ないわよ。この、鈍感男は。
「ふーん――そういうことか」
と、お姉ちゃんはうなずいた。
「大和君、残念だけど、あなたの気持ちには応えられないわ」
と、お姉ちゃんは、五十嵐君に向かって言った。
「そうですか?」
「きっと、大和君の身近に、私なんかよりも、あなたのことを想っている人がいるわよ」
「そんな物好き、いないですって」
と、五十嵐君は言った。五十嵐君は、自分のことを、よく分かっているみたいだ。
「そんなこと、ないわよ――ねっ、結衣」
と、お姉ちゃんは、私に言った。
「そ、そう、そう。お姉ちゃんの、言う通りだよ。ねえ、結城君?」
「ああ、そうかもな」
と、結城君は、陽菜と五十嵐君を交互に見ながら、五十嵐君に向かって言った。これなら、いくら五十嵐君が超鈍感男でも、気づくだろう。
「ふーん、そうか……。一之瀬、そうならそうと、言ってくれてもいいんだぜ」
と、五十嵐君は、私に向かって微笑んだ。
「えっ? 私?」
な、何を言ってるの?
「大和――お前……」
結城君は、呆れている。
「…………」
お姉ちゃんも、言葉が出ないみたいだ。そして、陽菜は――なんとも言えない、複雑な表情を見せている。
――そして、私は……。五十嵐君の見せた微笑みに、何故か、胸がドキドキしているような感じがした。
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