第2話

 長かった夏休みも終わって、明日から二学期が始まる。

 私は、期待と不安が半々だった。私は、不安な気持ちを取り除く為に、陽菜ちゃんに電話を掛けていた。

「陽菜ちゃん、どうしよう。今から、ドキドキが止まらないよ」

「結衣ちゃん、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。きっと、すぐに友達ができるよ」

「そうだと、いいけどね」

「ねえ結衣ちゃん、話は変わるけれど、東京に行ってからどこか行った?」

「うん。先週、お姉ちゃんと渋谷に行ってきたよ」

「渋谷かぁ、いいなぁ」

 私は、先週のことを、陽菜ちゃんに話した。

「小学生でお化粧なんて、すごいね」

「うん。私も、びっくりしちゃった」

「それに、スクランブル交差点とか、おもしろそうだね」

「そんなに、おもしろいものでもないけどね。陽菜ちゃん、もう切るね。また、お母さんに怒られちゃうから」

「うん。結衣ちゃん、おやすみなさい」

「おやすみなさい」

 私は、電話を切った。


 翌日――


 今日は、生憎の雨だった。

 私は、小学校の教室にいた。

「皆さん。今日から、このクラスに仲間が一人増えます。一之瀬結衣さんです。一之瀬さん、自己紹介を」

 と、先生が言った。

「はい――初めまして、一之瀬結衣です。皆さん、今日から、よろしくお願いします」

 私は、自己紹介をした。ぱらぱらと拍手がおこった。

 自分で言うのもなんだけど、転校生ということで、どこからきたの? とか、もっと騒がれるかと思ったけれど、みんな意外とさめてるのね。

 前の学校だったら、転校生というだけで大騒ぎになって、何日間かはちやほやされるんだけどね。

「それじゃあ、一之瀬の席は――窓際の、一番後ろの席が空いてるな」

「はい」

 私は、席についた。

「ねえ。みんな転校生に興味がなくて、驚いたでしょう?」

 隣の席の女の子が、私に話しかけてきた。

「えっ? うん。もうちょっと、騒がれるかと思ってた」

「ここの学校って、けっこう転校生が多いのよね。特にうちらの学年は多くて、みんな慣れちゃってるから、いちいち騒ぎ立てたりしないのよ」

「そうなんだ」

「私は、二宮麗華にのみやれいか。麗華って、呼んでね。よろしくね」

「うん。よろしくね、麗華ちゃん」


「お母さん、ただいま」

「おかえり。新しい学校は、どうだった? 転校生だから、騒がれたでしょう?」

「ううん。そうでもなかった」

「あら、そうなの?」

「東京では、普通のことみたい。隣の席の子が言ってた」

 とは、言ってないけど。

「ふーん。そうなんだ」

「お姉ちゃんは?」

「お姉ちゃんは、今日はアルバイトよ」

「あっ、そうか」

 お姉ちゃんは、今まで時給の高い夜にアルバイトをしていたけど、家賃の心配がなくなったので、先週から渋谷で昼間のカフェのアルバイトを始めた。

「結衣、おやつ食べる?」

「何?」

「シュークリームが、安かったから。半額よ」

 安かったからというのは、ようするに、消費期限ギリギリの商品ということだ。お母さんは、東京は物価が高いからと、今まで以上に、そういう商品を買ってくるようになった。まあ、私としては、期限内なら別にいいけど。

「シュークリームかぁ、じゃあ食べる」

 シュークリームじゃなくても、もちろん食べるけどね。

「部屋で食べるね」

「ぼろぼろ落とさないでね」

「うん」

「手を洗って、うがいもしてね」

「うん。分かってるから」

「東京は空気が悪いから」

「そんなこと言うと、東京の人に怒られるよ」

「お母さんも、今は東京の人よ」


 私は、手を洗って、うがいをすると、シュークリームとオレンジジュースを持って、部屋に戻った。

「シロちゃん、ただいま」

 私は、ベッドの上のシロちゃんに向かって、話しかけた。シロちゃんとは、渋谷のゲームセンターのクレーンゲームで、お姉ちゃんが取ってくれたぬいぐるみのことだ。

 あの男の子が、子犬にシロという名前をつけたので、私も同じ名前をつけた。

 お姉ちゃんには平凡な名前ねと言われたけど、このぬいぐるみを見たときに、あのワンちゃんのことが頭に浮かんだのだ。それで、私もシロという名前をつけた。

「シュークリーム美味しい」

 それにしても、学校の雰囲気が重たい。前の学校は、とても楽しかったのにな。本当に、帰りたい……。


 そして、月日は流れて、私は小学校を卒業して中学校に入学した。中学校でも、小学校と同じで、私はあんまりクラスに馴染めずにいた。麗華ちゃんとだけは、仲良くしていたけれど。

 お姉ちゃんは、就活で忙しいのかと思いきや、アルバイト先の店長さんたちに評価されて、そのまま正社員にならないかと言われているらしい。お姉ちゃん自身も、まんざらでもないみたいだ。

 お姉ちゃんに内緒で、お姉ちゃんのバイト先のカフェに行ってみたことがあるけど、後輩に指示をして、てきぱきと動くお姉ちゃんは、とても輝いて見えた。

 私と違って、東京に馴染んでいるお姉ちゃんは、別世界の人間じゃないかとすら思えた。


 そして、更に月日は流れて、私は高校二年生になっていた。

「結衣!」

「なんだ、麗華か」

「なんだとは何よ。冷たいわね」

 私は、麗華と同じ高校に通っていた。麗華は、隣のクラスだ。

「どうしたの?」

「今から帰るところでしょう? 一緒に、帰ろうよ」

「まあ、いいけど」

「それじゃあさ、渋谷でカフェにでも行かない?」

「なんでよ?」

「なんでって――たまには、いいじゃない? 結衣のお姉さんの、お店に行こうよ」

 やっぱり、そこか。お姉ちゃんは大学を卒業後、そのままカフェに正社員として入社した。お姉ちゃんは、今年でまだ26歳だけど、カフェの副店長である。

 麗華は、そんなお姉ちゃんに、あこがれているみたいなのだ。

「たまにはって、春休みに三回も行ったじゃない」

「春休みは春休みよ。二年生になってからは、一度も行ってないわよ」

「はいはい」

「よし決定!」

 麗華は、私が呆れて、はいはいと言ったのを、私が了解したと受け取ったみたいだ。

「お姉さんに、進級の報告をしないとね」

「ちょっと、どうして麗華が私のお姉ちゃんに、そんなことを報告するのよ? そんなことしなくても知ってるわよ」

「結衣! 何をしてるの? 早く行くわよ」

 麗華は一人で、どんどん歩いていく。

「ちょっと、麗華! 私の話、聞いてるの? ――もうっ、仕方がないわね」

 麗華を一人で行かせるのも、何を話されるのか不安だし。仕方がないから、私も麗華を追って歩き始めた。


「いらっしゃいませ――あら、結衣。また来たの?」

 ちょうど、お姉ちゃんがいた。

「うん。来たくて来たわけじゃないけどね」

「お姉さん、こんにちは」

「あら、麗華ちゃんも、来てくれたのね」

「はい。私、このお店が大好きなんです!」

「あら、嬉しいわね」

 よく言うわよ。お店がじゃなくて、お姉ちゃんのことが好きなんでしょ。

「今は空いてるから、どこでも好きなところに座ってね」

「はい!」

 私たちは、一番奥の窓際の席に座った。

「二人とも、注文は決まった?」

「私は、苺ショートケーキのセットでいいや。飲み物は、カフェオレで」

 と、私は言った。

「麗華ちゃんは?」

「それじゃあ私は、チョコレートケーキのセットで。飲み物は、コーヒーでお願いします」

「それじゃあ、ちょっと待っててね」

 お姉ちゃんが奥に戻っていくと、

「はぁ……やっぱり、素敵なお姉さんねぇ……」

 麗華は、お姉ちゃんが歩いていった方向を見つめて、うっとりしている。

「――ねえ、麗華」

「…………」

「ちょっと、聞いてる?」

「えっ? 何か言った?」

「前から気になってたんだけど、麗華って――その、なんて言うか――」

「何よ?」

 こんなことを聞いても、いいのだろうか?

 私は迷ったけれど、思いきって聞くことにした。

「間違ってたら、ごめんね。別に、とがめるとか、そんなんじゃないからね。そういう人を差別するとか、私はそんなことしないから――」

 私は、早口で捲し立てた。

「だから、何がよ?」

「麗華って――もしかして、女の人が好きなの?」

 とうとう、聞いてしまった……。もしも、うんって言われたら、どうしよう?

「えっ? ちょっと、結衣、何を言い出すのかと思ったら、そんなわけないでしょう」

「そう――だよね」

 よかったぁ。私は、ほっとした。

「私が好きなのは、結衣のお姉さんだけよ」

 麗華は、当たり前でしょとでも言いたげだ。

「あ、そう……」

 喜んでいいんだか悪いんだか。

「麗華、私のお姉ちゃんの、どこがいいの?」

「どこって――綺麗だし、背が高いし、スタイルがいいし、優しいし、それに仕事をしてる姿が、とても素敵だわ。私も将来、ああなりたいの」

 はぁ。がんばって、なってください。

「麗華ちゃん、そんなに褒めても、何も出ないわよ」

 お姉ちゃんが、注文した物を持って、やってきた。

「お姉さん、聞いてたんですか? やだ、恥ずかしい」

 そんなに、恥ずかしそうには見えないけど。

「私の方が恥ずかしいわ。でも、ありがとう。結衣のお友達に、そんなふうに思われて光栄だわ」

 お姉ちゃんは、本当に恥ずかしそうだ。

「そんなに、すごいことばかりでもないよ。お姉ちゃん最近、恋人に振られたし」

「ちょっ、ちょっと、結衣――なんで、あなたが知ってるのよ?」

 お姉ちゃんは、動揺している。

「お母さんが、言ってた。お姉ちゃんが、あまりにも仕事ばかりで、すれ違いが多くてって」

「お母さんったら――でも、麗華ちゃんの前で言わないでよ」

「ごめんなさい。麗華が、いいことばかり言うから、つい――」

「その男の人って、見る目がないですね」

 何故か、麗華が怒っている。

「私も将来は、ここで働いて、お姉さんみたいになりたいです」

 どうして、そうなるのよ?

「それは大歓迎よ。もちろん、面接は受けてもらうけどね」

「麗華って、もう将来のこと決めてるんだ」

 と、私は言った。

「だって私たちも、もう高校二年生だよ。普通、決めてるでしょう?」

 確かに、麗華の言う通りか。私たちも、もう高校二年生。進学するのか、就職するのか、どちらにせよ決めなければ。

「結衣は、まだ決めてないの?」

 と、お姉ちゃんが聞いた。

「うん。そんなこと、まったく考えたこともなかった」

「そうなの? ちゃんと考えた方がいいわよ。結衣も、もう子供じゃないんだから」

 と、お姉ちゃんは言った。

「そうね――」

「お姉ちゃんが、相談にのってあげようか?」

「気が向いたらね」

「何よ、それ。それとも、結衣もここで働く?」

「それは、嫌だ」

 私は、間髪を入れず言った。姉妹で同じ職場なんて、なんか嫌だ。

「まあ、いいわ。麗華ちゃん、結衣の相談にのってあげてね」

「はい! 私に任せてください」

 麗華は、力強く言った。

「ちょっ、ちょっと、任せてくださいじゃないわよ」

「なによ。私じゃ不満なの?」

「別に、不満とかじゃないけど……」

「結衣って、素直じゃないわね――お姉さん、結衣って、昔からこうですか?」

「うーん――小学生の頃は、もっと素直で、かわいかったんだけどね。反抗期かな?」

「大きなお世話よ……」

 そんなんじゃ、ないわよ。

「それじゃあ私は行くから、ごゆっくり」

 麗華は、お姉ちゃんの後ろ姿を、ずっと見つめていた。


 その日の夜――


 私の部屋のドアを、ノックする音が聞こえた。

「結衣、ちょっといい?」

 お姉ちゃんの声が聞こえた。

「何?」

「入るよ」

 お姉ちゃんがドアを開けて、部屋に入ってきた。

「お姉ちゃん、おかえりなさい」

「ただいま」

「何か用?」

「うん。ちょっとね――結衣、そのぬいぐるみ、まだ大事に持ってるんだね」

 お姉ちゃんは、ベッドの上に置かれたぬいぐるみを見ながら言った。ぬいぐるみは少し傷んでいるが、まだまだ綺麗だった。

「うん」

 このぬいぐるみを見ると、田舎のことを思い出す。

 そして――あのワンちゃんと、男の子のことを――

「結衣、あなた、帰りたいんじゃないの?」

「――えっ? どこに?」

「田舎によ」

「どうして?」

「結衣、無理してるでしょう?」

「そんなこと――」

 私は、無理をしているのだろうか?

「あなた、田舎にいた頃は、もっとキラキラと輝いていたわ。東京に来てから初めて渋谷に行ったときは、楽しんでるのかなって思ってたけど、夏休みが終わって学校に行くようになってから、だんだん変わっていったよね」

「…………」

「結衣――あなたには東京のような都会は、合ってないのかもね」

「お姉ちゃん――私……。ううん、なんでもない。大丈夫だよ。東京は楽しいよ」

「――そう、分かったわ。でもね。無理はしなくても、いいんだよ。結衣はまだ、16歳なんだから。それじゃあ、お姉ちゃん、お風呂に入ってくるから」

「うん」

 お姉ちゃん、ありがとう……。


 1ヶ月後――


「結衣! 明日からゴールデンウィークだけど、どこか行く予定あるの?」

と、麗華が言った。

「別に、ないけど。麗華は?」

「ちょうどよかった! それじゃあ一緒に――」

「行かないわよ」

「まだ、何も言ってないでしょ」

「麗華の行きたいところは、聞かなくても分かるわよ。どうせ、私のお姉ちゃんのお店でしょう?」

 それ以外、あり得ない。

「いいじゃない。春休みが終わってから、まだ一回しか行ってないんだから。ついでに、カラオケにでも行こうよ」

「分かったわよ。行くわよ」

 お姉ちゃんのお店はともかく、カラオケでストレス発散したい気分だ。

「それじゃあ、明日12時に渋谷駅ね」


 その日の夜――


「ただいま」

 お父さんが、会社から帰ってきた。

「お父さん、おかえりなさい」

「おお、結衣か。ちょうどよかった」

「何? お土産でも、あるの?」

 カバン以外、何も持っていないみたいだけど。

「突然だけど、お父さん、転勤になった」

「…………。えっ?」

 本当に突然すぎて、私は理解するのに、しばらく時間がかかった。

「なんだ、聞こえなかったのか? 転勤が決まったんだ」

「いつ? どこに?」

 また、転校するのかな?

「まだ、ちょっと先なんだが、9月からだ」

「9月?」

「ああ、だから、8月の終わりには引っ越しだ。前の家に戻るぞ」

 えっ? 今――なんて? 前の家に、戻る?

「お父さん――今、前の家に戻るって言ったの?」

 聞き間違いじゃ、ないよね?

「ああ。なんだ、不満か? 結衣は、東京に残りたいか?」

「ううん。そんなこと……」

「お父さん、おかえりなさい。正式に決まったのね?」

 お母さんが、やってきた。

「ああ。今日、決まった」

「お母さんは、知ってたの?」

 と、私は、お母さんに聞いた。

「そんな話があることは、ちょっと前から聞いていたわ」

「どうして、教えてくれなかったのよ?」

「結菜とも話したんだけど、結衣に言うのは、正式に決まってからにしようって」

「お姉ちゃんも、知ってたの?」

 知らなかったのは、私だけか……。

 でも――嬉しい!

「ただいま」

 そこへ、お姉ちゃんも帰ってきた。

「おかえり」

「みんな、玄関で何をやってるの?」

「結菜、お父さんの転勤が決まったんだ」

 と、お父さんが言った。

「そう。正式に決まったんだ」

「お姉ちゃんは、東京に残るの?」

 と、私は聞いた。

「私も、帰るわ」

「お姉ちゃん、お仕事は、どうするの? 副店長なんでしょ?」

 せっかく副店長にまでなったのに、辞めるなんてもったいない。

「結衣には言ってなかったんだけど。実は今度ね、前の家から通えるところに、系列の新しいカフェがオープンするのよ。それでね、私に、そっちの方に行ってくれないかっていう話があるの」

「結菜、受けることにしたの?」

 と、お母さんが聞いた。

「うん。明日、店長に話すわ」

「結菜、いいんだな?」

 と、お父さんが聞いた。

「うん」

「ちょっ、ちょっと、待ってよ。私、その話も知らないよ」

「結衣、ごめんね。お父さんの転勤が正式に決まる前に話して、もしも転勤の話がなくなったら、がっかりさせると思ったから、黙ってたの」

 と、お姉ちゃんが言った。

「もうっ! みんなで、私だけ仲間外れにしたのね」

「まあ、そう怒るなよ」

 と、お父さんが申し訳なさそうに言った。

「結衣の学校も、決めないとね」

 と、お母さんが言った。

「そういうことは、学校の先生に相談してみてくれないか」

 と、お父さんが言った。

「そうね。結衣、今度、先生に相談してみましょう」

 と、お母さんが言った。

「うん。分かった」

 あっ、明日、麗華になんて言おう――

 きっと、悲しむだろうな。


 翌日――


「結衣――う、嘘でしょう?」

「麗華、ごめんなさい。本当なの」

 私は麗華とカラオケに行った後、カフェに来ていた。カラオケのときは引っ越しのことを言えずに、カフェに着いてから話したのだった。

「どうして? カラオケのときは、何も言ってなかったじゃない」

「だって――麗華が、すごく楽しそうだったから、言い出しにくくて……」

 すごく楽しそうに歌う麗華を見ていたら、なかなか言えなかったのだ。

「…………」

「麗華? 泣いてるの?」

 麗華の目には涙が浮かんで、今にもこぼれ落ちそうだった。

「だ、だって――もう、会えなくなるなんて……」

「麗華……」

 私の為に、麗華がこんなに泣いてくれるなんて……。嬉しくて、私も涙が溢れてきた。

「う、うぅ……。本当に、もう会えないのね……」

「麗華……」

「お姉さん……」

「…………」

 えっ? うん? 今、お姉さんって言った? ちょっと待って、私じゃないの?

「麗華ちゃん、泣かないで。永遠に会えないっていうわけじゃ、ないからね」

「――はい。お姉さん……」

 なんだこれ? 私の涙を、返してよ!

 私は、涙を流す麗華と、麗華を慰めるお姉ちゃんを、複雑な気持ちで見つめていた……。


「結衣、いつまで東京にいるの?」

「まだ分からないけど、たぶん夏休みの終わり頃だと思う」

「そうかぁ……」

「まだ、3ヶ月以上はあるよ」

「3ヶ月なんて、あっという間だよ」


 3ヶ月半後――


「麗華――あれから本当に、あっという間だったね」

「うん。結衣――元気でね」

「麗華も、元気でね。また、いつか会おうね」

「また、渋谷に行こうね」

「うん……」

 私は、涙が溢れてきた。麗華の目にも、涙が光っている。

「お姉さんも、お元気で」

「麗華ちゃん、結衣と仲良くしてくれて、ありがとうね」

「私も、お姉さんみたいな人を目指して、がんばります」

「がんばってね」

 麗華は、私とお姉ちゃんと、抱きあった。

「結菜、結衣、行くぞ!」

「お父さんが呼んでるから、もう行かないと」

 私とお姉ちゃんは、お父さんの車に乗り込んだ。

 こうして私は、6年間住んだ東京を後にした。

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