第9話

 今にも消えてしまいそうな命が二つ。女が生きてきた時間と腹の中で蠢いている肉の運命が俺に委ねられている!


 夢中だった。玄関でうずくまっていた俺は女の体を獣のように飛び越えて、車から持って来たガムテープを口に貼り、手足をロープで拘束した。そして女の髪の毛を掴んでフローリングのある部屋へと引きずり込んだ。女は小さく呻いた。意識が少し戻った女はまた涙を流していた。

 

 事前に出しておいたビニールシートを広げて、血がビニールシートの外に流れださないように四隅を内側に折ってガムテープで固定した。そのビニールシートの上に女を乗せて、下半身に予め新聞紙を入れておいた二重のごみ袋を履かせた。絞め殺した後の失禁でシートを汚さないための防止策だった。


 女はまだ呻いている。肉の前にまずこいつを黙らせなければいけなかった。ビニールシートの上で手足を拘束されて仰向けで転がされている女の上に跨り、重ねた両手を首に添えた。頭の方をよく見てみると少し出血している。あの時躊躇いがあったのだろう。脳がはみ出るくらい力を籠めて殴らなかった自分を恨んだ。そうしておけばこんな手間をかけずに済んだのに。


 今度は後悔しないように徹底的にやらねば。


 重ねた両手に力を込めた。ガムテープ越しに、


 「んぐぅっ」


 という声と共に半開きだった目がカッと見開かれた。俺はもっと両手に力を籠める。女の顔が赤から徐々に黒紫のような色に変わっていった。俺の尻の下になっている拘束された体がびくびくと動いた。白目を剥きかけている目は眼球が零れ落ちるのではないかと心配になるほど開かれていた。頬には涙の筋ができている。


 良い光景ではない。早く終わらそうと思って両手に俺の全体重をかけた。小さな音がして掌で骨が折れる感覚がわかった。手を緩めて念のために心臓の音を聞いてみたが何も聞こえなかった。首の脈に手を当ててみてももちろん反応はない。

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