第7話
後ろから襲いかかったため、女の顔は見られなかったがタオルの中から漏れ出す唸り声と俺の手に落ちてきた雫の冷たい感覚で女が泣いていることに気付いた。それでもここまで来たらもう後戻りすることはできない。俺は小さな声で、
「暴れたら殺す」
と女の耳元で脅すと一瞬体を硬直させて動きを止めた。その瞬間を狙って俺は素早く右手で顔に当てていたタオルを地面に投げ捨てた。左手は女をしっかりと抱えたまま、少しだけ体を離してズボンのウエストに挟んでいたスパナを取り出して女の頭に思い切り降り下ろした。
「ンガッ!グゥ・・・」
女はこれっきり唸ることも動くこともなかった。
スパナを再びウエストに挟んで、左腕にだらりと垂れ下がった女の体を両腕で抱きかかえて車に向かおうとした。孕んでいる女の体は予想以上に重くて驚いたが、肉の詰まった宝箱だと思えば苦ではなかった。その途中でチラリと後ろを振り返ると闇の中にベビーカーがポツンと取り残されている。それを見て、また今の状況が現実とは思えなくなった。ただただ、ああ、やっちまったんだなぁ・・と、他人事のように思っただけだった。
必死に早足で車まで戻り、手早くドアを開けて女を後部座席に押し込んだ。俺も運転席に乗り込んで大きなため息をついた。暫くはぁはぁと息が上がって顔を上げることができなかった。落ち着こうと何度も深呼吸をした。何度目かの深呼吸の最後に不安と緊張を体から追い出すように大きく息を吐いた。後ろの女は相変わらず動かない。抱えていた時に脈があったことは確かめているが、もしかすると殴り所が悪かったせいでそのうち死んでしまうかもしれない。それならそれで都合がいいのだが、そんなにうまくはいかないだろう。
もっとしっかり殴ればよかったと後悔しながら車のエンジンをかけた。
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