第3話

 俺は肉が食べたくてたまらなかった。バッダから肉は無いと言われて余計に食欲が刺激されたのだ。しかたなくイライラした気分で家に帰り一晩を過ごしたが、相変わらず衰えることのない肉への欲を抑えられずにベッドの上で悶々としていた。


 入荷は未定。他の肉では満たされない俺の食欲。他の行為では誤魔化せない俺の悲しみ。俺を狂わす魅力を持つ肉の鮮やかさ。初めてあの肉を食べた時の感動と衝撃。店に肉を置いてくれていなかったバッダへの恨み。ベッドで転がっている間に様々な思いが過ぎって行った。


 諦めるか、肉の入荷を待つか。自分で狩るか、似たような他の肉で紛らわすか。肉が絡むと正気でいられなくなるため正しい判断がしにくくなる。しかしここで誤った判断を下せば間違いなく法的・社会的制裁を受けることになる可能性が高い。そうなった場合、バッダの方からも何かしらの制裁を受けることになるだろう。

 

 己の犯罪行為は己の中だけで済ませなくてはならない。一言でもバッダやその周辺のことを口にしてしまえば俺はもう「お客様」ではなくなる。どの国の法律より厳しくて悲しいほど正しいバッダの裁きから逃れられることはできない。もしもバッダに関することを警察に漏らしたら、俺はあいつに抹殺され、死んだ後は肉を愛する同志たちから楽しみを奪った生ゴミ野郎と罵られる存在としてあり続けるのだろう。自身の判断やその時の運によっては不名誉極まりない死後が待ち受けているかもしれないという状況でもあの肉が頭から離れなかった。もう理性では抑えられないところまで食欲に追い詰められている感じがした。

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