意外と大胆なのはお互い様です
放課後の静かな教室。
おれとけいかのシャーペンが走る音だけが響く。
他には誰もいないし、それでいいと思っていた。
だというのにその静寂は破られる。
廊下から騒がしい足音が響いて、おれが顔を上げるのと同時に教室の扉が開いた。
「寿直!!」
「どうしたのけいすけ」
けいかはけいすけを無視して宿題を続けているし、けいすけはおれを呼ぶしで返事をするしかない。
けいすけがなにを言いたいかとか、なにを慌てているとか知っているからあんまりかまいたくないんだけどしょうがないね。
「相内さんに告白された」
「だろうね」
「やっぱり寿直は気づいていたんだ。直哉も、だよな」
「当然でしょ。気づかぬは本人ばかりってね」
彼は若干ふらついた足取りでおれの横に座る。
けいかが少し迷惑そうだけどここは許してほしい。
今朝の落ち着いた様子とは打って変わって、けいすけは混乱しているようだった。
テンパってると言ってもいいかもしれない。
「けいすけ、少し落ち着きなよ」
「お、おう。悪いな。なんていうか驚いちゃって。
相内さんと直哉のことは2人の問題で、俺は全然関係ないって高括ってたのに関係なくなくてさ。
むしろ当事者で、俺のせいで2人が分かれたって言っても過言じゃないんだよな。
言い過ぎってくらい言っても物足りないくらいだよな。
俺の、せいで、直哉はあんなに泣いてたんだ?」
「全然落ち着いてないし」
苦笑してみせるとけいすけは更に困ったような顔をした。
けいかがため息をついたせいでますます委縮しちゃってるし。
彼女はなにも言わずに教室から出ていった。
「あーー、硯さんに迷惑かけた?」
「気を遣っただけだと思うよ。けいかはそういうの口に出さないから。
直哉のことは遅かれ早かれそうなってただろうからそんなに気にしなくてもいいんじゃないかなあ。
だって直哉もそれを承知で付き合ってたんだし。
まあ、それはそれとしてけいすけは鈍いから反省しなよ」
そう言うとけいすけは「わかってる」とふてくされたような顔をした。
けいすけはどうもささいせんぱいに過敏になりすぎて自分のことについては疎かだから。
もうちょっと自分に向けられている、自分だけに対する感情に気づいてほしいと思う。
「……もしかして嘉木も俺のこと好きだったりする?」
「それは知らないよ」
たぶんないんじゃないかとは思うけどね。
だってかぎさんは昼休みにあいうちさんに絡まれたとき本気で嫌そうだったし。
少しでもけいすけに気があるのなら、もうちょっと敏感な反応するんじゃないかな。
そこまでかぎさんに詳しくないんだけど。
「嘉木はあなたにそういう興味ないと思うよ」
いつの間にかけいかが戻ってきていてそう言った。
手にはコーヒーを3本持っている。
はい、とおれとけいすけにそれを渡しつつ、自分も口を開ける。
「嘉木って人の色恋沙汰とか問題には口を突っ込むけど、自分自身のことは適当っていうか興味ないみたいなところあるから笹井君に恋とかない」
「硯さんは嘉木と仲悪いんじゃなかったっけ。詳しいな」
「詳しく知った結果、嫌いなの。
あるでしょ、そういうの」
「けいすけは直感で人を嫌うからないんじゃないかな」
けいかは『うわあ』みたいな冷めた顔でおれとけいすけを見る。
けいすけもけいすけで申し訳ないような顔をしていた。
「嫌いだと思ったらそいつを知ろうとか思わないし、近寄らんし」
「だから最初は嘉木を嫌ってたのに今は仲良くしてるんだ。
私とは合わなさそうね。
でもそうやって勘だけで人を判断してたから今みたいなことになってるんじゃないの。
ちゃんと知りもしないで、こうだろうって思い込みで決めつけて」
「否定しかねる」
「そういう人嫌い」
「まあまあ、けいか落ち着いて。けいすけもそんなに落ち込まないでね?
けいかの言うとおりなんだけど、そんないきなり人間ダメなところが治ると思ってないから」
「だ、ダメとか言うなよ……」
ああ、けいすけが落ち込んだ。
ちょっと言いすぎちゃったかと思わなくはないけど、ある意味けいすけの自業自得だからしょうがない。
あとは本人がちゃんと挽回できるかどうかだ。
「で、笹井君はその相内さんとやらにちゃんと返事はしたわけ?
まさかそこまで手抜きしたりしてないよね」
「してねえよ!
ちゃんと好きじゃないから付き合えないって言った」
「そ。ならいい。それすらできていないのなら軽蔑するところだった」
なんでけいかはこんなに喧嘩腰なのだろうか。
けいすけの態度が余程気に入らなかったのかな。
でもこれ以上放置するとけいすけが本気で泣くかもしれないから止めてやるとしよう。
「けいか、言い過ぎ。けいすけもけいすけなりにいろいろ考えてるんだから慮ろうよ。
けいすけはとりあえず今日は帰れば?
これ以上学校にいてまた相内さんと鉢合わせたくないでしょ」
「それもそうだな。邪魔した。帰る」
「また明日ね」
ひらひらと手を振ってけいすけを見送った。
「けいかはけいすけのなにが気に入らなかったの」
「なよっとした態度」
「なら放っておけばいいものを」
それができないからトラブルを起こしているのだとそろそろ気づこうね、ほんと。
俺が毎回庇えるかっていうと、そうじゃないんだしさ。
「これ以上は口出ししないよ。私だって学んでるし」
「だといいんだけどね」
けいかに睨まれる。
昨日のことがあったばかりでどの口が言うのやら。
なんにせよ、けいすけは自分で考えなくてはいけない。
しょうこせんぱいに関わらない、自分というものを。
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