もしかして初恋?

放課後、一人で屋上へと向かう。

寿直と直哉はそれぞれ、

「こればっかりはけいすけが自分で解決しないとね」

「もう俺に出来ることはやった。あとは自分でなんとかしてくれ」

と言ってついてこなかった。

別についてきてほしかったわけじゃねえけど、なんか知らぬ間に面倒をかけていたようで申し訳ない。

一体俺はなにをしてしまったんだろうな。

ため息をこらえつつ屋上に行くと既に相内さんが待ち構えていた。

「待たせたか」

「いえ、私も今来たところです。来ていただいてありがとうございました」

相内さんはなんの表情も浮かべずに礼を言った。

いつも作り笑顔みたいな顔をしている相内さんが無表情って怖いな。

「で、なんの用?」

「お時間を取らせては申し訳ないので単刀直入に言います。

啓介先輩、好きです。付き合ってください」

「は? はあ!?」

いやいやいや、待て待て待て。

相内さんは今なんつった?

俺のことが好き?

なんでどうしてそうなる。全然意味がわからん。

「よくわかんねえんだけど」

「私だってよくわかりません。最初は祥子先輩の弟さんとしか思っていなかった。

けど祥子先輩のついでにって観察していたら、いいところがいっぱいあって、もっと見ていたくって、それが高じたと言いますか」

「なんだその格上げ」

「だから私にもわからないんですって。

本当に、気が付いたら好きで、それだって降田先輩に指摘されるまで気づかなかったんです」

えーー。

直哉のやつ、そんなこと相内さんに言ったのかよ。

それはきっと直哉にとってめちゃくちゃ言いたくないことだったんじゃないのか。

でも言わないと先に進めないような。

あ、そうか。

それで、言って、別れて、あんなに泣いてたのか。

やっべえ、俺のせいじゃないか。

直哉が泣いてたのも、寿直が呆れてたのも、もしかして嘉木がなんにも言わなかったのも全部わかっててのことなのか。

なんにも気づかずにぼんやりしてたの俺だけ?

……マジかよ。

「あの、啓介先輩?」

「あ、うん。えっと、ごめん相内さん。

俺は相内さんとは付き合えない。好きじゃないし、直哉のこともあるし無理だ」

「そう、ですよね。ごめんなさい、わかってました。困らせるようなことを言ってしまいました」

「いやいいんだ。悪いのは俺だから」

相内さんは困ったような悲しいような顔をした。

それは昨日見た直哉と同じ顔だ。

「すみ、ま、せん。私、たぶん初恋で、自分のことたぶんって言うの変なんですけどたぶんそうで。

だから、ちょっと、その」

そこまで言うと彼女はうつむいて肩を震わせた。

こういうとき俺には出来ることがない。

抱き寄せるわけにも、慰めるわけにも、どうするわけにもいかないのだ。

「こっちこそごめんな。次はもっとマシな男を見つけてくれ」

「そんなの……!! あの、その、すみません、一人にしてもらえますか」

「そう、だな。うん。それじゃあ」

相内さんの返事を聞く前に屋上から出た。

出たというより逃げた。

誰かの恋心を背負う資格なんて今の俺にはない。

今じゃなくたってきっとずっとないんだ。

だから逃げた。

ああもう。俺って情けないなあ。

こういうとき、こういうどうしようもない感じは一体どうしたらいいんだ。

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