奪いたい

なんやかんやで昨日今日と延々と啓介と寿直にぼやいてしまった。

けどたまにはいいと思う。

俺にだって落ち込むことはあるのだ。

昨日は嘉木さんにまでみっともないところを見られてしまったけれど、そういうこともある。

それに今朝は部長にしごかれて酷い目にあったのだ。

事情を説明するわけにもいかず、ただ土下座と謝罪だけでなんとかやり過ごした。

きっと放課後もひどい目にあうだろうけど、それでも部活は好きだから行く。


昼休みに啓介と寿直と飯を食っていると、啓介がスマートフォンを取り出して眉間にしわを寄せた。

「どうした」

「いや、嘉木から面倒なメールがきて」

「なにか頼まれたのか」

「うーーん」

啓介ははっきりしない態度で返事を誤魔化している。

なにか、俺には言いづらいことなんだろうか。

「京子ちゃん関連か」

「直哉にしては鋭いな。まあ、そうだよ」

「そんなに気を遣わなくていい。で?」

「いやーー。行った方が早いと思う」

本当に嫌そうな顔をして啓介は弁当を仕舞い席を立った。

寿直も面白そうに立ち上がる。

先立つ啓介についていくと、廊下で見知った女子二人が言い争いをしていた。

「ただちょっと聞いただけじゃないですか」

「そういう勘繰りが迷惑だって言ってるの」

「堪えられないようなことでもあるんですか」

「あなたには関係ないでしょう」

一人はショートカットの小柄な女子、嘉木さん。

もう一人は女子の内では背が高い方の……京子ちゃんだ。

もうこの時点でなにについて言い争っているのか分かったので帰りたい。

「直哉は帰っていいんだぞ。なんなら寿直も帰れ。お前は面白がってるだけだろ」

「いや、京子ちゃんを放牧したのは俺だし、放っておもくのなんだから付き合う」

「そうだよ。面白いことには積極的に首を突っ込んでいかないと」

寿直の言う「そうだよ」がなにに対する同意なのかちっともわからない。

たぶん啓介もわからないながらにしょうもないと感じたのかなにも言わずに女子2人に向き直った。

「嘉木、俺を面倒に巻き込むな」

「巻き込まれてるのはわたしなんだけど」

「はあ?」

「この子が笹井君の交友関係知りたいってさ」

「はあ」

「ちょっと嘉木先輩!? そういうこと大きい声で言いますか!!?」

京子ちゃんが声を荒らげる。

なんていうか、なんていうか、だな。

すごく残念な気持ちになってきた。

気持ちはわかるがやり方が盛大に間違っていると思うんだ。

「京子ちゃん」

「降田先輩。何か御用ですか。今取り込んでいるのですが」

「2年の階で騒ぎを起こさないでほしいんだけど」

「降田先輩に関係ないでしょう。私は嘉木先輩と話しているんです。

啓介先輩たちを呼んだのは嘉木先輩ですか。

一対一で私と話すことさえしないんですか」

「したくないもの。あなたが本当に用事があるのは笹井君でしょう。わたしを巻き込まないで」

わあ。

女の子怖い。啓介についてきたことを今ものすごく後悔している。

横を見ると寿直も同じような、ちょっと諦めの入った顔をしていた。

啓介はといえばよくわからない顔をしている。

なんつうかあれだな。

啓介は祥子先輩のことで神経尖らせまくってきた挙句に自分のこと疎かになっちゃって、自分に向けられる感情をちゃんと理解していないところがあるんだよな。

「京子ちゃん。啓介に対する質問は放課後に屋上で、にしてくれ。

いい加減目立ちまくってるって気が付いてるだろ」

「……。啓介先輩はそれでいいんですか」

「えーー……」

啓介は本当に面倒くさそうな顔をしている。

その気持ちはわからんでもないがここは頷いてほしい。

「啓介」

「わかったよ。それでこの場が収まるんだな?

俺は教室に帰って良くて、これ以上目立たないんならそれでいい」

なんだその消極的な意見は。

啓介にしては腰が引けている。

まあ、こいつ悪目立ちするの嫌うしな。ていうか、どうであれ目立つのが嫌いだもんな。

「わかりました。それでいいでしょう。授業が終わりましたら屋上でお待ちしております」

それだけ言うと京子ちゃんは身をひるがえして階段を上がっていった。

嘉木さんは「そういうことだから」とだけ言って1組の教室に帰っていく。

昨日に引き続き巻き込んで本当に申し訳ない。

「けいすけ」

「おう」

「あいうちさんがけいすけになにを言いたいかくらいわかるよね」

「すまん、わからん」

寿直がドン引きした顔をしている。

たぶん俺も同じような顔をしている。

まあいい。

啓介は京子ちゃんに言われてきちんと状況を把握すればいいんだ。

とりあえず、このまま廊下にいるのは目立つので教室に帰った。

……。

啓介にフラれた京子ちゃんが俺の元に戻ってくる、なんて都合のいいことはないか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る