吐息
その日の放課後の部活に京子ちゃんはこなかった。
そんで啓介から『鈍くてごめん』とだけメッセージが飛んできた。
本人に言われてやっと気づいたのか。
本当に鈍いやつ。
『今更だから気にすんな』と返してあとは放っておくことにした。
それこそ今更だし、今からどうこうしようとか思わないしな。
「なに、直哉フラれたの」
「フラれたっつうか。まあ、そうだな。そういう冬弥は笹井先輩に告白できたか?」
「できるわけないだろ、ばーかばーか!!」
言い返されたくないならつついてこなきゃいいのに。
どっちが馬鹿なんだかわからない冬弥の言動がおかしくて、落ち込みそうな気持ちが少し浮上した。
当の笹井先輩はちょっと離れたところで一人でストレッチをしている。
まだ残って練習するのかな。
俺と冬弥ら2年生はとっくに着替え終わって帰ろうとしていた。
1年生に至ってはすでに帰宅済みである。
最近の若者はビジネスライクなため、残って先輩の雑談に付き合ってくれたりはしないのである。
しかし3年生は引退も近いせいかいつまでも残って練習をする人が多かった。
それは悪い言い方をすればなにかにしがみついているようで、そうはなりたくないと思う反面、自分が同じ立場なら同じことをしそうだ。
隣では冬弥が無言で笹井先輩を見ている。
その目には熱がこもっていて、たぶん俺も同じような顔で京子ちゃんを見ていたんだろう。
今はもう、そんな顔できないけど。
「そう言えばさあ」
「うん?」
「1年の女の子が直哉のことめっちゃ見てたけど」
「誰?」
「知らん。陸上部じゃあなさそうだけど」
それはつまりどういうことだ。
俺に新しい春が来たってことか。
「直哉時々キモイ顔してるもんな」
「おい待てどういう意味だ」
「そのまんまだよーーー」
何故か爆笑しながら言う冬弥。
からかわれたのか……。くそう、覚えてろよ。
俺もいつかまたかわいい女の子を見つけて恋をする。
でもまあしばらくはいいか。
部活やったり啓介や寿直とばか騒ぎするだけってもの楽しいかもしれない。
色恋ばかりに思いを傾けている場合ではないのだ。
校門を出るとそこには京子ちゃんがいた。
「お疲れ様です。降田先輩」
「お疲れ、相内さん」
「少しお話させていただいてもいいですか」
「少しなら」
ああ、やばい。
もう振り返らないようにしようって思ったばかりなのに。
女の子以外のものにも目を向けようと思ったところなのに。
「啓介先輩にはフラれちゃいました」
「うん」
「でもだからってすぐに他の人と付き合うことは考えられません。
もう少しの間、ゆっくり考えようと思います」
「うん」
「それではさようなら、降田先輩」
「さようなら、相内さん」
そうして、俺の恋は完全に終わりを告げた。
なんていうか、もうちょっと感傷的になるかと思ったけど意外とそうはならなかった。
あっさりってほど割り切れないけど、それでも落ち着いて話せたと思う。
思うところがないわけじゃない。
未練がないわけじゃない。
けど、終わりにしようと今度こそ思った。
これ以上引きずってもなんもいいことないもんな。
明日はちゃんと明るい顔で登校しよう。
啓介と寿直にこれ以上迷惑かけないためにもな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます