どうしようこの人かわいすぎる
昼休みが終わる直前になって、けいかが教室に戻ってきた。
けど相当ギリギリだったので声をかけることはできず、けいかからもなにかを言ってくることはなかった。
その後の休み時間にけいかのところに行くとお弁当を食べていた。
昼に食べられなかったからだろう。
「昼休みはなにを言われた?」
「担任に言葉遣いに気をつけろって」
「それだけ?」
「英語の先生を挑発するなっていうのくらいかな。
でも途中で当の英語の先生と担任がちょっと揉めてたけど。
寿直君も放課後はそういうことを言われるんだろうね」
それで遅くなったのか。
おれがなにかを言われる分にはいいんだけどさ。おれが悪いところもあるんだし。
それ言っちゃうとけいかに関してだってけいかがだいたい悪いんだけど。
時間がなかったのでそれだけ話して授業を受けた。
放課後は正直面倒だけど行かないわけにはいかないんだよな。
その日の授業を終えて職員室に向かう。
職員室で担任に声をかけると応接間に通された。
「悪かったな、いきなり呼び出して」
「いえ大丈夫です。話は昨日のことですか」
「それもあるし先日のこともある。
まずは昨日のことだがあまり大きい声では言えないがあれは、英語の先生の方が間違っていると俺は思っている。
他の先生方については意見が別れるからなんとも言えないがな。
とはいえ硯の言い方も悪くないとは言えないから、硯にはその辺りを注意しておいた。
新崎が逃げ出したのはまあ、あの場ではしょうがないだろうな。お互い興奮していたし。
それはそれとして先日のことだが、今でも新崎は被害届を取り下げる気はないのか」
本題はこちらなのだろう。
担任は困ったような、探るような顔をしている。
「取り下げる気はありません。
彼らにはこのまま前科者になってもらいます。
先生、暴力は犯罪ですよ」
「そうなんだがな。それは間違っていないし、このご時世に学校内の問題は学校内で、といってクローズしようということがそぐわないのもわかる。
ただ教師としての古い古い感覚が、それを恐れているんだよ」
その感覚はわからなくもない。
昔は体罰やいじめは当たり前だったと聞く。
それらは学校内で処理されて外に漏れることはなく隠されていた。
でも残念ながら今はそういう時代ではない。
体罰もいじめも犯罪であり、罰を受けるものなのだ。
学生だからってなあなあで許されるだなんて見通しが甘い。
「ぼくのやり方は先生方にとって都合が悪いですか」
「はっきり言うなあ新崎。だがまあその通りだよ。古い価値観を持つ大人や教師にとって、そういう今どきのやり方は都合が悪いんだ。
だからいろんな先生方がお前を非難しようとするし、俺だってともすれば被害届なんて大げさだって言いそうになる。
しかしそれじゃあいつまでたっても旧体制のまま、なにも変わらない。
そういうところを変えていくのがお前たちの役目なんだろう」
担任はそう言ってため息をついた。
その辺りが対立するのはある程度仕方がない。
そういうものだと割り切って折衝することが大事なのだ。
なんでおれがこんなに落ち着いているかといえば、おれよりさらに新生代の妹とのやり取りがあるからなわけで。
いやほんと、時代って変わるんだなとしか言えない。
「先生の心遣いには感謝します。
まず英語の先生については気をつけます。
そして彼らについては今更ぼくからできることはほとんどありません。
ぼくは彼らを訴えた。それは取り下げない。あとは司法の役割です。
他になにかお話はありますか」
「いいやないよ。しかし新崎の物わかりの良さは気持ちが悪いな」
「そういう世代ですので。では失礼します」
ぺこっと頭を下げて職員室を去る。
これでしばらくはなにも言われないだろう。
それっぽいことを言うのは得意なのだ。
教室に帰るとけいかが宿題をしていた。
自分でやるなんて珍しい。
「ただいま」
「おかえり。早かったね」
「うん。気をつけますって言って出てきちゃったから。
英語の先生も乱入してこなかったし」
それはつまりそういうことなんだろう。
女に対立する女ってやつ。違うか。女に対立したがる女か。
「無事そうでよかった」
「無事だよ。けいかは宿題してるんだね。珍しい」
にやっと笑ってみせるとけいかは渋い顔をした。
そんなに嫌そうにしなくたっていいのに。別に貶してるわけじゃないんだからさ。
「見せないよ」
「えーー、いいじゃん。いつもおれが見せてるんだからたまには見せてよ」
「勉強は自分でやってこそ意味があるの」
「けいかがそれを言う?」
そんなやり取りの後、なんとか頼みこんで宿題を見せてもらう。
後半はもうただの意地だった。
本当は見せてもらわなくたって困らないけど、そういうの強請りたい時もあるもんね。
少しずつけいかの態度が柔らかくなってると思うのは、おれの都合のいい妄想だろうか。
それとも。
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