Act3『邂逅も、喪失も、雨と共に』Ⅰ


 ――三年前。あの日は酷い雨だった。

 全身を打つ幾つもの水滴。それを感じながら、少年は人気の失せた路地裏で倒れこんだ。


「……くっそ、ミスったな」


 全身に走る幾つもの裂傷。そこから溢れ出すおびただしい出血が体力を奪う。更にこの雨で体温の下がった身体が一層冷えていく。


「流石の俺も……年貢の納め時ってか?」


 自嘲するように、ニーアは言葉を漏らす。身体が思うように動かなかった。本能的に自分の最後を悟る。


(……ごめん……博士……)


 無意識のうちに、心の中で彼に謝った。

 せっかく生かしてもらった命を、結局つまらない失敗で失くしてしまう。自分の命がどうなろうが知ったことではなかったが、生かしてくれた彼に対しては申し訳なさが沸き上がる。

 自分が死を望んでいるのか。それとも生き延びることを願っているのかすら曖昧な思考の中、ニーアはただ忘我しながら水浸しの地面に横たわった。


(やべぇなぁ……ババァも……ヴィルも……怒っかなー?)


 不意に脳裏に過った、彼に逃がされた後に出会った彼の友人と名乗る二人の姿に、くはは……と小さく笑った。

 ああ、人はこんな状況でも笑えるんだな――そんなことを朦朧とする意識の片隅で考え、目を閉じようとした時だった。


「おーい、どうしたんだい?」


 温かい光と共に頭上から注がれた脱力気味の声と、やたらと泣き喚く猫の声が、耳朶を叩いたのは――。


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