リノとテスタ その2

「・・・テスタが余計視線集めてる」


いつの間にか騒がしかったまわりが、嘘のように静かになっていた。


皆、童女とその付き人の行動を興味津々で見つめてる。


「げ。」


「・・・次はないからね。」


リノはそういうと、指をパチンと鳴らす。


すると童女とその付き人を囲むように、白い魔法陣が描かれた。


「“忘れて”」


童女が呟く。


カチリ


世界は一瞬嘘のように停止した。


それは知覚できないほどの一瞬だったがその一瞬で世界が少しだけ変わった。


童女と付き人の数分前までの行動を、目撃した全ての人の記憶から消したのだ。


何事も無かったように時が流れてゆく。


相変わらず二人は視線を集めていたが、その数はとても少なくなっていた。


「ふぅ〜〜良かった〜〜」


ほっと胸をなでおろす付き人。


どうやら二人は必要以上に目立ってはいけないようだ。


「・・・いくよ」


再び歩き出す童女。


しかし付き人は付いていかない。


「・・・どうしたの?」


くるりと振り返り童女が問う。不思議そうに。


「リノにゃん…。」


声のトーンを落として喋り出す付き人。


「・・・なに」


大事なことのように感じた童女が少し、真剣な顔になる。


「お腹空かないにゃ!?」


思いつめていた顔をしていた付き人が、突然破顔して素っ頓狂な声を上げる。


「なんかね。ボクね。お魚の匂い嗅いだら急にお腹なっちゃって。」


「・・・・・・っ」


ごす。


先ほどよりも大きく嫌な音が聞こえた。


「おぅふ。今のはちょっと聞いたかも。」


またうずくまる付き人。


当然のように先ほどよりも深刻な顔をしている。



「・・・テスタきらい。」


童女の顔にこそ現れなかったが、全身が怒りで震えていた。


付き人の事を放っておいてすたすた歩き出す童女。


「待ってよぉーーー」


地面に突っ伏しながら片手を童女の背中へと伸ばす付き人。


少しオーバー過ぎる動きである。


再び視線を集めた民衆からはそのように見えた。


オーバーな動きをした付き人は、ばたりと再び地面へと倒れた。


そのまま付き人は動かなくなり、半刻ほど時間が過ぎた。


変化がなくなった物を見続ける暇人は人々の中にはいなく、興味の薄れた者たちはすぐに持ち場へと戻ってゆく。


童女が戻ってこないのを確認すると、ようやくむくりと起きだす付き人。


んーと両手を上げ伸びをする。


「さぁーて、リノにゃんもいなくなったし、動くとしますかー」


舌舐めずりを付き人はした。


じゅるりという音が聞こえるくらいの見事な動きだった。


「リノにゃん以外はご無沙汰だし、今日はどの子にしようかなー!!」


童女に付き人が巻き込まれていた訳ではなかった。


童女が付き人の手綱を握っていたのだ。


なんとか付き人は抜け出し、自由行動を開始する。


どこかで童女のため息が聞こえた気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る