第9話

 なんで?どうして?そんな言葉は一瞬にして掻き消され、幸せな気持ちが広がっていた。今まで全く手を出してこなかった先生が、私に触れている。理由なんてどうでもいい。

 何度も何度も繰り返す。お互いを求めるように。どうして…先生の心臓の音も聞こえてくるのだろう。こんなの慣れっこなはずなのに。

「シバ超かわいい」頬を摘んで微笑む先生。

 その時、ふと我に返った。

 先生には彼女がいる。婚約もする予定なんだ。今日は彼女のプレゼントを選びに来たのに。こんなこと…だめだ。

「私…帰らないと」

「なんでよ。どこか泊まろうよ。今日はシバと離れたくない」

 本当なら抱きついてしまいたい気持ちを抑え込んだ。先生の彼女が悲しむことを、これ以上出来ない。

「帰ります」

 一緒にいたい。もっと一緒にいたいけど、私は先生の物語の中の彼女ヒロインじゃないのだ。


 終電に乗り込みひとり涙を流した。おまじないは効かなかったみたいだ。先生の彼女になりたいという欲望がさらに大きくなってしまった。先生は何とも思ってない女の子にキスができるの?それとも私は先生の中で少しくらい特別な女の子なのだろうか。

 私は先生のことをまだ何も知らない。知ることが怖いのだ。知ってしまったら何もかも変わってしまいそうで、怖いのだ。

 信じれば裏切られるなら信じちゃいけないのに。私は先生の笑顔や温もりを信じてしまう。好きだ好きだと、全身が言っている。


 次会った時の私はどうなるのだろう。全てを受け入れてしまうのだろうか。先生と関係を持ってしまうのだろうか。一歩踏み入れてしまった先生の世界から遠ざかることはできるのだろうか。

 あの時の私はまだ自分のことさえもわからなかった。

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星の砂 暴君A。 @ayumi1030

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