高鳴る鼓動


「ケルシー、本当に大丈夫?」


ジェイソンは、心配そうに私を見た。


「う、うん、大丈夫」


ドキドキして、目が合うと恥ずかしくて。


「一時限だけ休憩してから…教室に戻る?それともこのまま早退する?」


突然のジェイソンの問いかけに、私は一瞬パニックになって。


「早退は…したくないから、教室に戻りたいわ」


私がそう告げれば、ジェイソンは笑って頷いた。


「じゃあ、ダーバス先生にそう伝えてくるよ…保健室の先生が居ないことも含めて」


そう言うと、ジェイソンは颯爽と保健室を飛び出して行った。


私は保健室のベッドから身体を起こして座り、時計を見たり周りを見たりしていた。


10分程して、ジェイソンがうっすら汗をかき、軽く息を荒らしながら戻って来た。


「ふぃー、疲れた…」


ジェイソンはそう言いながら、笑って私の隣に座った。


私の心臓が、一際に大きく跳ねた。


近くにある、ジェイソンの横顔。

そこから目が反らせなくなったと同時に、私の鼻をくすぐる…少し汗の匂いの混じったジェイソンの優しい匂い。


心臓が可笑しくなりそうな程、鼓動している。


「ダーバス先生ったら頑固なんだよ、本当に…」


ジェイソンは手で汗を拭いながら笑った。


「た、大変よね…ダーバス先生を説得するの…」


私は、この学校が自由になる前に体調を崩し、ピアノができる状態じゃなかった時があった。

ダーバス先生にそれを説明して帰るのに相当苦労し、帰り道で倒れたのを思い出して、ダーバス先生説得の大変さをひしひしと感じた。


「僕が保健室の先生の代わりに側に居るから、ゆっくり寝たりとかすると良いよ」


ジェイソンはふんわり笑ってそう言ってくれた。

優しさは身に染みるけど、貴方が居ると…ドキドキして眠るなんて出来ない!

…なんて、言える筈のない思いが頭を巡る。


取り敢えず、ジェイソンと沢山色々と話した。


家族兄弟のこと、ピアノのこと、バスケのこと、トロイ達のこと、ガブリエラ達のこと、エヴァンス姉弟のこと。


そして、それぞれの恋愛のこと。


予想外なことに、一時限が終わっても語り尽くせない程に話が盛り上がった。


少し話しながら教室へ戻る道すがら、「もし、良ければなんだけど…ランチ、一緒に食べない?君と、もっと沢山話してみたいんだ」とジェイソンからランチに誘われた。


余りにビックリして、一瞬思考が停止していた。

そして、理解した後は緊張やらなんやらでクラクラしてしまった。


もちろん、返答は「YES」一択で。


それをテイラーやガブリエラ、マーサに話すと、まるで自分ごとみたいに喜んでくれた。


授業中はドキドキと幸せで上の空だった。


ちらっと後ろを見ると、まさかのジェイソンと目が合ってしまった。


少し笑顔を見せるジェイソンにつられるように笑ってしまい、テイラーにニヤニヤされてしまったけど。

(私は1列目の一番前、ジェイソンは2列目一番後ろ、テイラーはジェイソンの前の席。)


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