最期の言葉は?
目の前に溢れる人、人、人。
ここは国際空港。なぜここに私がいるかっていうと……
「大丈夫か?はぐれるなよ」
そう言って微笑んでくれる私を買った主は手を差し出す。
私はその手を取り、ともに歩き出した。
私は主を兄さんと呼んでいる。
割と地元民は遊びに利用したりもするらしいこの国際空港に兄さんは
「ゲーセンに行こうぜ」
なんて言って誘ってくれた。
正直うれしい。舞い上がりすぎて死にそう。いやでも死にたくはない。
人ごみをかき分けてやっとたどりついた目的の場所は割と人が少なく、しかしかなりの豊富なゲームの数々に心躍った。
(あ……あれは……!)
クレーンゲームの中に一山、小さな人形のキーホルダーが積み上げられていた。
ただの人形なら見逃していただろう。しかし……
「りゅ、りゅうくん……!し、しかもゲーセン限定バージョン!」
私が大好きなアニメの愛するキャラクター……。
親友に向かって何度もグッズを見せて『私の夫だから!結婚したから!』などと言いまくれるほど愛するひと。
りゅうくんを語りだしたら止まることはない。
それがご当地ゲーセン限定バージョン……とらないわけにはいかない。
めらめらとやる気がみなぎる。
一歩、そちらへ向かおうとすると、片手が何かに引かれた。
「おいおいどうした?どこ行くんだよ?」
心配そうにする兄さんは私の真意を読み取ったのか、にこりと微笑んでこう言った。
「悪いな。でも――」
「一人にはしたくない、ですよね?わかっています。兄さんのほうを先に行っちゃいましょうよ?」
困ったように兄さんは笑った後、【悪いな、終わったらとってやるから】と言って列に並び始めた。
数分後、どこからか携帯の着信音が鳴る音がした。
兄さんの携帯だったらしく、スマートフォンの画面をタップし電話に出る。
しばらく兄さんは適当に返事をするだけで、だんだん不機嫌な表情になっていった。
通話を切った後、とてつもない溜息をついたので、
「……どうかしたんですか?」
と恐る恐る私が聞くと、兄さんは苦笑いを浮かべた。
「仕事の電話だ。……お前を連れていくわけにはいかないからな……」
まったく兄さんは心配性すぎる。
私は溜息をつき、笑顔を作って兄さんが心配しないようにふるまう。
めったにない一緒に遊べる機会を逃したくはなかった。けど……
「ここで並んで、限定アイテムをもらえばいいだけですよね?大丈夫ですよ。兄さん、私が携帯持っていること忘れていませんか?」
兄さんを困らせたくもなかった。
あぁ、そういえばそうだな。と言って、私が見えなくなるまで兄さんは何度も何度も心配そうに振り返っていた。
「what of me did you help?(あなたは、私の何を助けてくれたの?)」
イヤフォンから流れる音楽に合わせて口ずさむ。
目の前の列がだんだん短くなっていき、そろそろ順番かな、と暇つぶしに人の数を数えてみていた。
そのとき、エレベーターが動いた時みたいな、血が頭のほうに残るような感覚に襲われた。
悲鳴を上げる人、
冷静にしゃがむ人、
しりもちをついた人、
パニックになったフロアはまだ揺れ続けている。
――地震が起きた――
驚いて座り込んだ数分後、やっと事態を理解できた。
ポケットの中にある携帯が震えた。
『兄さん』
そう表示された画面を見て、すぐに着信に出た。
「だ……か……」
周りの人の声でよく聞こえない。
「なに?兄さんは大丈夫?私は無事だよ!兄さん?兄さんは?」
電話の向こうからも悲鳴や、人々の声が聞こえた。
相当パニックになっているらしい。
足元から何かがわれる音がした。
下を見ると、床がひび割れている。
ひび割れの伸びてきた方向を目でたどった。
フロアの中央からここまでひび割れが伸びてきたのだ。
「大丈夫、また会える」
電話から聞こえた声は、そう言ったように聞こえた。
悲鳴は、どこから聞こえたのかな。
硬い物がきしむ音、その後に何かが崩れるくぐもった音が聞こえたと思えば、天井がわれ、上からたくさんのコンクリートや鉄の棒、落ちてきた人々はたくさんの服の色がカラフルに彩っていた。
それらすべてがまた中央にいた人を飲み込み、また下へと落ちてゆく。
兄さんとの通話は切れていた。
シェバはさっきまで人がいた場所を呆然と眺め、鉄の棒がむき出しになって大穴が開いた場所の縁まで近づき、おもむろに下を覗き込んだ。
それは、まだ十代の若き少女には衝撃が強い、悲惨な光景が広がっていた。
地獄絵図、と彼女は表現しただろう。
生きている人、死んでいる人、たくさんの人とガレキが混ざって、それ以上見ることは、シェバには困難だった。
雲一つない青い空。
どこかの籠から逃げ出したかもしれない、見たことない綺麗な色の鳥が飛んでゆくのが見えた。
願えば叶った。
新たな道を得るために、過去を代償に身を売った。
今度は自由を得るために、彼女が代償にしてしまったもの……
どこか心にぽっかり穴が開いたようで、風が吹き抜けていった。
“I won’t feel any regret to the place where I threw me away.(私を捨てた場所に、すこしも後悔などない)”
つながることはない携帯。片耳のイヤフォンからは音楽が流れ続けた。
夢の世界で安寧を 雪城藍良 @refu-aurofu2486
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