思わぬ収穫
思わぬ収穫だった。
友達という弱点を見つけたときにはすでに勝ったと思ったが、これでみずからの勝利はほぼ確実となったであろう。
ミラージュは、ハロウィンの日、街で見かけた魔法使いとなれる素質を持った少女に声をかけた。
その佐々木サラサは、他人の血を飲むことで魔力を増強していく、とても変わったな第一魔法の使い手だった。
すでに、彼女は何人もの人間を殺し、大量の血を飲んでいた。魔力のレベルは、もしかするとすでに、自分以上かもしれない。
魔法使いの強みは、第一魔法にある。その第一魔法がいかに特殊なものかで、相手への不意をつけるのだ。
だが、彼女の第一魔法は、自己魔力の強化でしかない。けれども、その自己強化が無限に強化できるのだとしたら、もしかするとそれだけで最強を勝ち取れるかもしれない。
まあ、しかし、どんなに彼女の自己強化が長けていたとしても、その使いかた次第では最弱となってしまうだろう。だが、彼女はその使いかたに関しても才能があったのだ。若干、暴力的ではあるものの、まあ悪くはないかもしれない。
そして、そのみずからの復讐を果たした少女が、奇跡的に、定禅寺イリヤへ牙を剥いたのだ。
ミラージュは、喜んでいた。
(これほどまでに、うれしいことはない。理由はわからないが、とにかく彼女はおおきなかく乱をもたらしてくれるだろう。わたしの計画が、やつらにバレることなくすすめられるというわけだ)
だが、
(だがしかし、計画は慎重にすすめていかなくてはならない。あのイリヤとシャルナというふたりは妙にするどい感性を持っていて、なぜかわたしの位置を特定する……。その理由さえわかればいいが、わたしには到底、わからないだろう。万能な能力者など、この世界には存在しない。弱点のなかったやつに弱点が生まれたように、な。弱点が生まれれば、最強は最強ではなくなるのだよ、定禅寺イリヤ)
笑いがこみあげた。
ミラージュはいま、夜の青葉城跡地へやってきていた。
その墓地で、石造りの墓を自己強化した素手で掘り起こしはじめる。
石造りの墓の底は、土だった。土はスコップで掘りかえした。
高名な偉人たちのたましいは、長いあいだ、この世界を守り続けていたりするものだ。
「よし、あたりだ」
そして、この青葉城跡地に眠る将軍のたましいもまた、この時代に残っていた。
地上に現れたその裸の将軍に、ミラージュは【幻覚】の第一魔法で変装し、命令をくだした。おそらくその将軍にはミラージュの姿は江戸時代の姿に見えていただろうし、あたりの風景も江戸のそれに見えていたはずである。
「むうう……」
将軍が低い声でうなった。
長く眠っていたかもしれない将軍はおそらく、死んだ瞬間までの記憶しか持っていないだろう。
その将軍をしたがわせるには、その将軍についての知識をたくわえておかなければならなかった。
「片目の毒の影響で、長く眠っていたようだな」
「ああ……」
将軍はなにかを思い出すように顔面をおさえた。
「ほかの死んだ人間どもを呼び起こせ。これより戦争がはじまる」
「死んだ人間……?」
「貴様は死んでいる。だが、まだこの世にたましいを残してしまっている。それはとても良くないことだぞ。それゆえの戦争だ。戦争に打ち勝てば、貴様らは天国へ成仏することだろう」
「ううむ……」
「記憶が、曖昧なのだろう? だが、安心しろ。貴様の兵士たちは貴様を憶えているはずだ」
「
「とある人間の抹殺だ」
「どこのものの……」
「この街の」
「みずからの街の人間を抹殺しろと……」
「そうだ。時代は変わった。いまの時代では貴様はただのひとりの霊でしかないのだ。わたしの命令にしたがってもらう。そうしなければ、貴様には永遠の地獄を見せよう」
ミラージュは業火に燃える仙台藩を見せつけた。将軍は目を見開いて驚いた。
「ああ、燃えている……!」
「貴様を永久にこの燃える街へ閉じこめる。わたしにはたやすい行為だ」
「妖術か……!?」
「そのようなものだ。どうする?」
「貴様は復讐者か……」
「そのようなものだな」
「したがおう……。みなのたましいをすくうために」
「よろしい」
将軍が、瞳を閉じた。身体から微量の魔力が放出された。だが、この仙台藩の片目のない将軍はけっして魔法使いなどではない。魔力が放たれた理由は潜在的なものが原因なのである。しかし、そうすることで、ほかのちいさな墓からおおくの裸の兵士たちが霊としてよみがえった。数にして、およそ五〇人。五〇人もいれば、ここの墓場以外のほかの兵士霊たちを呼び起こさせるのにじゅうぶんな数である。これにより、おおくの兵を、ミラージュは獲得することとなるだろう。
残りの計画は、あとふたつ――。
「——待っていろ、定禅寺イリヤ」
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